ケレン味がリアリティを凌駕!
超音速戦闘機同士のドッグファイトこそこの映画のクライマックスであり、その視覚効果を担当したのが、1977年製作の『スター・ウォーズ』1作目において、圧倒的スピード感とダイナミズムでSF映画のルックとモーションを一新させたジョン・ダイクストラです。
しかもタイトルロールのファイヤーフォックスのデザインは、『未知との遭遇』(1977)でマザーシップを製作したミニチュアメイカー、グレッグ・ジーン。そのフォルムは、現用戦闘機の斜め上をゆくリアリティと、ケレンに満ちたカッコよさが並び立っているではありませんか。全身チタニウムメタリックのまるでミレニアムファルコンのような挙動で飛び回り、超低空を超音速で海面上を飛べばその衝撃波で海面が跳ね上がります。超音速で飛行するファイヤーフォックスのすぐ後に、2列の水柱がまるで並木道みたいにわずかな時間差でドドドドーン!と次々に高らかに立ち上がるのです。
衝撃波の表現としてはいろいろ難癖はつけられるでしょう。でもそのケレン味がリアリティを凌駕する時もあるんです。なんか脳から変な物質が分泌されるんですよ! ほかにもデススター・トレンチそっくりのクレパスを、これまたギリギリの高度を飛行したり、やりたい放題です。
映画のカラーを変えてしまうほどのドッグファイトの合間には、アクションスターのイーストウッドをして大きな与圧ヘルメットをかぶって戦闘機のコクピットに座らせ、超音速のGにひたすら耐えるカットが挟まるだけなんですが、それでも充分成り立つのがすごいところであります。
その後、監督・主演のシルヴェスター・スタローンの再編集で昨年復活を遂げた『ロッキー4 炎の友情』※(1985)といい、シュワルツネッガーがモスクワ警察の堅物刑事を演じた『レッド・ブル』(1988)といい、冷戦たけなわだったあの時代の旧ソ連に対する、脅威の過大評価と侮蔑がないまぜになって、かつてのドイツ軍のような大ボラが許される土壌が熟成され、娯楽映画のヒールとしての誇張がエスカレートしていくのですが、そのきっかけはこの『ファイヤーフォックス』と言っても過言ではないでしょう。
※『ロッキーVSドラゴ:ROCKY Ⅳ』として4Kデジタルリマスターで再構築、2022年8月に全国公開された
『ブレードランナー』で暗闇にネオン輝くアジア的汚れた空気感のごった煮的近未来を、『ファイヤーフォックス』で世界一を誇る覇権国家ソ連ハラショー!をたった1日で浴びたわけですから、高校2年生のワタシは居ても立っても居られなくなるわけです。 中1で『スター・ウォーズ』を観た時にはぴくりとも動かなかった、「俺もこういうの作ってみてえ!」欲がムクムクと大きく膨れ上がってきたのです。
『ファイヤーフォックス』Firefox(1982)上映時間:2時間16分 アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、フレディ・ジョーンズ、デヴィッド・ハフマン他Everett Collection/アフロ
冷戦時代のアメリカ。超高速でレーダー探知不可、しかも思念で操縦するという戦闘機をソ連が開発したとの情報が入る。軍は、ベトナム戦争帰りで心に傷をおって引退した敏腕パイロット・ガント(イーストウッド)に、その奪取を命令。別人になりすまし、鉄のカーテンをくぐったガントの任務の行方は。
2度のアカデミー作品&監督賞に輝くイーストウッドの映画にしては、ダントツに荒唐無稽でありながら、硬派な展開とアクションが魅力的なエスピオナージュ・バトル。