東京五輪から始まった神宮外苑の破壊

斎藤 この対談を始める前に明治神宮外苑のイチョウ並木を通ってきましたが、とても綺麗で、多くの人が散策を楽しんでいました。都心には珍しく高いビルがなく、空が広がる貴重な空間です。その明治神宮外苑の再開発が問題になっています。

計画どおりにいけば、1000本もの樹木が伐採され、周囲には高層ビルが立ち並ぶようになるわけです。ロッシェルさんはこの再開発に反対の立場で市民運動をはじめ、樹木伐採の反対署名活動も展開なさっています。

ロッシェル 樹木伐採の署名活動はすでに11万人をこえる署名をしていただいて、さらにもっと増えていく感触です。というのも、まだほとんどの皆さんが、この再開発によって何が行われるのか、どんなことが起こるのか、よくご存じないんですよ。明治神宮も関連事業者も東京都も、情報を出すことに積極的ではないし、意図してかどうかはわかりませんが、問題を矮小化するような情報も出しています。この再開発は無茶苦茶ですから、詳しく知ったら、もっと多くの人が反対するはずです。

斎藤 私自身も再開発の内容をこと細かに把握しているわけではないので、今日はその詳細をぜひ教えていただきたいのですが、大前提として気候変動がこれだけ世界的に問題になっているいま、樹木伐採も高層ビルの建設もやってはいけないこと。そんな愚行に私も大反対です。

また拙著『人新世の「資本論」』(集英社新書)で論じたように、公共の財産(<コモン>)を資本の利潤獲得の道具にさせず、人々の議論のもとで管理するということが重要だと私は考えています。

その意味でも、ロッシェルさんたち市民が神宮外苑という<コモン>の在り方に積極的にかかわろうとしているという話も、今日はぜひ聞きたいです。ところで、そもそもこの再開発のスタートは東京五輪の誘致と関連しているわけですよね?

ロッシェル そうです。

斎藤 2016年五輪の招致計画ではメイン会場は湾岸エリアに設定されていた。それがなぜか4年後の計画では、外苑エリアがメイン会場として設定され、建築家ザハ・ハディドによる巨大な新国立競技場が採用された。

ザハ案は巨額の費用がかかると撤回となったものの、ザハ案にあわせるかのように外苑エリアの建築物の高さ制限が緩和された。この経緯から規制緩和のための五輪招致だったと言われています。

ロッシェル 神宮外苑は風致地区に指定されていて、規制緩和前は高さ15メートルという厳しい制限が課されていましたが、空の広がる神宮外苑が、規制緩和によって新宿や渋谷と変わらない、息苦しい空間になってしまいます。

斎藤 五輪のため、という錦の御旗を立てて規制緩和をする。これは典型的な祝賀資本主義です。政治学者ジュールズ・ボイコフという人が使い始めた用語なのですが、五輪であれ、万博であれ、メガイベントのお祭り気分に人々を酔わせ、その裏で問題の多い再開発を進めるわけです。

そのせいで犠牲になるのは、結局はふつうの人の暮らしと自然環境です。そして五輪開催前から噂されていたとおり、神宮外苑エリアの再開発計画が発表になった。そういう経緯ですよね。