金儲けのためにイチョウ並木が枯れる

ロッシェル 新・神宮球場の外野スタンドの外壁は、イチョウ並木すれすれに建ちます。新球場の建設の際、地中に深い杭を打つはずですから、イチョウの木の根がずたずたに痛めつけられるでしょう。そして高層ビルや球場の日陰も悪影響を及ぼします。

樹木の専門家は、多くのイチョウが枯れると警鐘を鳴らしています。たくさんの映画やドラマやアニメの名シーンで使われたあの風景がなくなってしまうんですよね。イチョウ並木の脇にあるカフェやレストランも素敵なのに、再開発でなくなります。

それだけでなく、今あるバッティング・センター、軟式野球場、フットサル・コートなど、一般市民が気軽に安い料金で利用できるスポーツ施設はすべて廃止されることになっています。すでにゴルフ練習場は閉鎖されました。ひとつだけ残るスポーツ施設が高級会員制テニスクラブ。会費、とても高いんですよ。

斎藤 そんなにわかりやすい話なのですか。うすうすそうだろうとは思っていましたが、まさに1%の資本・金持ちvs99%の一般市民の戦いという構図ですね。公共性の高い空間を資本の金儲けの道具になるように再開発する、ということがよくわかりました。

神宮外苑は誰のものなのか?

斎藤 外苑再開発に私が反対しているのは、単に東京の住民だからというわけではありません。全国各地で同じような事例が進行中で、この神宮外苑が象徴的だからこそ、止めたいし、強く反対していきたいと思っています。

ロッシェル 京都の京都府立植物園に商業施設とアリーナ、横浜・上瀬谷の花万博招致、筑波・洞峰公園に有料のグランピング施設とビール工場………。市民の公の財産を資本に売り渡すことばかり続いています。

ビジネス・パーソンとしての立場から言えば、公園はもともと開けた土地ですし、交渉相手はその公園を管轄する自治体だけですから、再開発がやりやすいのです。それが公園が狙われる理由だと思います。

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斎藤 目先の金儲けをすることしか考えていない。資本家たちからすると、一番手っ取り早く金儲けをする方法は、これまで十分に商品化されてこなかったものを商品にすることです。最近の日本で言えば、水道の民営化もそうですし、公園の民営化・有料化もそうですが、やはりそうした流れの一環として神宮外苑再開発も行われているという印象を受けます。

その一方で、「神宮外苑は明治神宮が地権者だから、どう使おうか、明治神宮の自由じゃないか」という声もあるのですが、それもちょっと違うと思うんですよね。

明治神宮外苑の創建の歴史には「日本資本主義の父」と言われる渋沢栄一が関わっています。明治天皇をたたえるという趣旨もありつつ、渋沢らが近代国家にふさわしいランド・スケープを作りたいという熱意をもって、国民に献金・献木を呼びかけました。今日で言うならクラウド・ファンディングです。これによって全国から多くの寄付が集まり、ボランティアもたくさん集まって働きました。

そういう意味では、市民たちが自分たちの手で外苑を造ったとも言えます。その「明治神宮奉賛会」という組織は、その土地を明治神宮に献上したときに、「美観を永久に保全すること」を要請したという話もあります。

私は渋沢とは立場は違いますし、明治天皇に対する評価も異なりますが、なぜ天皇や日本の歴史に思いを持つ保守派の人たちから、歴史あるこの外苑の再開発にもっと強い反対の声があがらないのでしょうか。そこは保守派に問いかけたい。100年前の国民が、100年後の未来を考えて作った外苑が、やっと森として成熟してきたのに、なぜ破壊しようとするのか、理解できません。

ロッシェル そうなんですよ。いまは、明治神宮外苑の維持管理は明治神宮が行っていますが、本来、外苑は市民が作ったものであり、明治神宮が勝手にしていいわけではないのです。

長い間、明治神宮が外苑を維持管理したりしてくださったのはありがたいことですし、東京都と私たち市民が明治神宮にその意味で頼り切りだったわけですね。そこは私たちが反省するところです。でも、もし本当に明治神宮が財政難で外苑が維持できないなら、大資本とではなく、市民と議論すべきです。