屋根の開かない新・秩父宮ラグビー場
ロッシェル はい。問題だらけの外苑再開発の計画が始まったら、何が起こるかをお話しましょう。まず、外苑の西側にある「建国記念文庫の森」のほとんどの樹木を伐採し、神宮第二球場(ゴルフ練習場)も壊して秩父宮ラグビー場をそのエリアに新築します。
新しいラグビー場ができて嬉しいと思う人もいるかもしれません。でも、喜んでいる場合じゃないんです。今度のラグビー場は、屋根付きのイベント会場に人工芝を敷き詰めたような建物で、しかも屋根は開閉式ではないのです。
斎藤 えっ、屋根は開かないのですか。それじゃあ、屋内競技みたいじゃないですか。
ロッシェル どんな厳しい天候のもとでも試合をするのがラグビーの醍醐味。雨や雪に選手がどう対応するのか、それを見るのも楽しみのひとつです。歴史的な名勝負もそのときの天候と一緒に語られ、ファンの記憶に刻まれていきます。だから、屋根付きの計画に気づいたラグビー・ファンの間では、とんでもない競技場だと不評です。
斎藤 「ラグビーの聖地」と言われる競技場なのに。
ロッシェル 人工芝も選手の怪我につながりやすくて、危険です。マイクロ・プラスティックの問題もありますよね。人工芝でラグビーのような激しいスポーツをすれば、マイクロ・プラスティックが発生します。
斎藤 新しくなって競技場が良くなるというよりは、問題だらけ。高層ビルを建てる場所をあけるために移転させられるような印象です。
ロッシェル ええ、観客席も大幅に減らされますから。
脱炭素を目指すなら競技場のリノベを
ロッシェル そして秩父宮ラグビー場の跡地には、新しい神宮球場が建設されますが、野球場のまわりには190メートル、185メートル、80メートルの高層ビル計3棟が建ち並びます。
斎藤 ビルの谷間で野球の試合を見ても楽しくない。広がる青空の下で野球は見たいでしょう。
ロッシェル さらに致命的なのがビル風です。高層ビルが隣接していれば、強烈なビル風が吹くでしょう。そんな強風のもと、まともな野球の試合ができるでしょうか。しかもライト側の外野スタンドが大幅に縮小されます。
斎藤 ライト側で応援する、ヤクルト・ファンはそのことを知っているんでしょうか。
ロッシェル いえ、あまりニュースにもなっていないし、知らないと思いますよ。歴史のある六大学野球の、たとえば早慶戦でライト側で応援していた早稲田の人たちも愕然とするでしょうね。
斎藤 そもそも論として、リノベすればまだ使えるスタジアムをふたつも建て直すというのは、脱炭素の目標からも大きくかけ離れています。この環境危機の時代に何をやっているのか………。
ロッシェル ラグビーのワールド杯を主催する団体は、W杯を目的にした競技場の新設を昨年、禁止しました。「ラグビーは脱炭素を目指す社会の模範でありたい」という趣旨だそうです。そのルールの精神から言えば、今回の移転・新設を認めちゃいけないのです。
斎藤 自然環境を人の手が破壊しつくす時代という意味の、「人新世」という用語が注目されていますが、この神宮外苑の再開発もまさに「人新世」を象徴するような問題です。