「今年起こった事件の数々は、
なんだか日本のことじゃないみたいでした」

――最近起こった事件で印象的なのは、鈴木さんも個人的に感じることが多かったと思うんですけど、宮台(真司)さんの件です。

そうですね。ただしこの事件はまだ犯人が捕まっていないので動機がわからず、なんとも言えない部分があります。もしかしたら彼の言論活動とはまったく関係のない、私怨や逆怨みかもしれないし。
だから今の時点では、暴力による言論封殺はよくない!と声高に言うのもおかしいですよね。

――確かにそうですね。殺害予告のようなものはしょっちゅう来ていたと、宮台さん自身がおっしゃってはいましたが。

SNSみたいなものが普及して、気軽に個別メッセージが送れるようになってから、そういうものはすごく横行していて、いちいち気にしてなかったと思うんですよね。
でも、予告にとどまらず、実際に暴力が振るわれたことについては、やっぱりすごく驚きました。安倍氏の暗殺にしろ宮台さんの事件にしろ、こういうことって“起きそうで起きないこと”という感じがすごくしていたので。

大学構内で有名学者が刺されるなんて、日本では起きそうで絶対に起きないはずだったんです。アメリカのヒップホップ界隈や、治安の悪い南米のようなところでは起こっても、日本では非現実的なことのはずでした。
日本人はいい意味で弛緩した日常を送っていたので、今年起こった事件の数々は、なんだか日本じゃないみたいでした。

――今の日本は、歌舞伎町でさえも安全な感じですもんね。

そうですよ。いろいろ問題視はされてるけど、未成年の女の子が歌舞伎町のようなところで深夜まで路上にたまっていても、基本的にはなんも起きてないって、日本ならではですから。

世界では彼らのようなストリートチルドレンの命がものすごく軽んじられていて、毎週必ず何人か死んでるような国だってある。これがアメリカだったら、レイプももっと起きるだろうし。

そもそも、デリヘルがこんなに多くて、普通の女の子が働いてるって、アメリカ人からすると“密室に入ってなんで殺されないの?”と思うはずなんです。村上龍原作の『トパーズ』という映画は、SM系デリヘルの話なんですが、外国の映画祭で上映したとき“これは、ファンタジーなのか?”という声が出たそうです。こんな形態の風俗があったら絶対、オープンした初日に誰かしら人が死ぬと思われたらしいです。日本でももちろん、デリヘル嬢殺人事件なんかもいくつかあったけど、 それはすごく特殊な事例でしたからね。

「日本では起きそうで絶対に起きないことだった」安倍元首相暗殺、旧統一教会問題、宮台氏襲撃、ガーシー当選……芥川賞候補作家・鈴木涼美が噛み砕く2022年ニュース_3
「日本では起きそうで絶対に起きないはずだったんです」

「前の五輪がこれだけ問題含みで逮捕者まで出てるのに、
何を『さあ気を取り直して』みたいな感じになってんだと(笑)」

――訃報もたくさんありました。2022年2月には作家の西村賢太さんが亡くなっています。

ある意味、彼は社会の流れとまったく関係がなかった人ですよね。昔の作家はめちゃくちゃだっただろうけど、今はきちんとしていて頭のいい人が多いので。西村さんのような破天荒というか、ポリコレガン無視の獣のような作家は、やっぱり早く死んじゃうんですね。

――石原慎太郎さんが亡くなったのも、同じ2月でした。

西村賢太さんと違って石原慎太郎さんは、元々は湘南ボーイで“ザ・リア充”みたいな人。若いときには他の文学者と一緒に左翼運動をしていたのに、どこかから右傾化して保守化していくんですよね。

そんな石原慎太郎さんはある意味、“昭和の男”という感じでもあったから、訃報に接したときには、時代の流れのようなものを感じました。西村さんの方は、平成って感じも令和って感じも全然しない人だったけど(笑)。

お二人とも暴れん坊で口が悪いし、正しくないことを表現する人ではあったものの、同時期にこの二人の作家が他界したということに対しては、少し考えさせるものがありました。
最終的に石原慎太郎さんはやっぱり政治家。作家が創作でポリコレガン無視なのと、政治家がポリコレガン無視なのとでは、だいぶ意味が違うとは思うんですけど。

――石原さんとは、新聞記者時代に接点があったんですよね?

日経新聞で働いていたときは都庁番だったので、石原慎太郎は最初に見た大物政治家でした。テレビとかでは強そうに見えるけど、直接会ってみると意外とおじいさんだなっていう印象で。声も小さいし、歩き方もヨタヨタしていて。

そんな弱ったおじいさんがパワーを持ち続けていたことが、歪んでいると思います。だって自民党の二階さんだって後期高齢者そのもので、本当に正しい判断ができてるのか?って感じですよ。
そういう人たちにパワーが集中したまま、死ぬまで権力を持っているのがいいこととは思えません。フィンランドの首相の例とかを見ても然りです。

「日本では起きそうで絶対に起きないことだった」安倍元首相暗殺、旧統一教会問題、宮台氏襲撃、ガーシー当選……芥川賞候補作家・鈴木涼美が噛み砕く2022年ニュース_4
「立つ鳥跡を濁しまくりですよね」

――おじいさんたちが大張り切りした五輪も、その後の疑獄がひどいことになりました。

立つ鳥跡を濁しまくりですよね。でもこれだけ問題があったのに、まだ札幌への五輪招致をあきらめきってないっていうのが、またすごい話です。いまだに前向きな世論があるというのも、『うーん』と思います。

今、日本の成長の糸口が見えない中で、 何かしらの突破口を見つけたい人とか、先細っていく生活に不安があって、何らかのアクションが欲しいっていう人が多いのだと思うんですけど。それこそ、けじめもついていない状態で、またバッハを接待するの?とかね(笑)。

なんで潔く取り下げってならないのかな。だってカナダですら、いろんなことを鑑みて、立候補を取り下げているわけじゃないですか。日本はもっと厳しい状況で、なおかつ前の五輪がこれだけ問題含みで逮捕者まで出てるのに、何を“さあ、気を取り直して”みたいな感じになってんだと(笑)

――ですよね。よっぽどうまい汁があるんでしょうね。

まったく。