山上容疑者の母が語っていた「死んだ夫の霊」
「死んだ夫の霊がさまよっていて、献金するとしかるべき所におさまる」(NHK関西NEWS WEB 7月22日)
この言葉は安倍元首相を銃撃して死亡させた山上徹也容疑者の母が述べたものである。周知のように容疑者の母は旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合。以後は旧統一教会と表記)の熱心な信者であり、一億円を超える献金をしていたという。
驚くべき金額だが、筆者の知る限り旧統一教会では決して珍しいことではない。むしろ驚くのは、この金額を教団に献金させ、家庭を崩壊させ、山上容疑者を安倍元首相の殺害に追いやったこの言葉である。一体どのような経験をすれば、こんな言葉が生まれてくるのか。
特徴的なのは、抽象的な概念を述べているのではなく、極めて具体的で感覚的、特に視覚的なことだ。まるでそれを見ているかのようである。これは旧統一教会の教学システムと深く関わり合っているものなのである。
筆者は1988年から1994年にかけて、宗教団体に親族や友人が捕らわれてしまったと述べる人たちに、ロジャーズ学派に基づくカウンセリングを行っていた。
ロジャーズ学派は、非指示的療法といって、クライアントに思いのたけを話させながら徐々に視野を広げさせ、クライアント自らが悩みを解消すること、そのための気づきを与える点に特徴がある。
また、家族の鎖の解消という重要概念があり、家族関係に縛られている信者親族の悩みの対処法としてはうってつけだった。こうしたカウンセリングの過程で、いわゆる新宗教と呼ばれる教団の資料を集めていたのだが、その中に旧統一教会も含まれていた。
彼らの拠りどころとなる「原理講論」。これを読んでみると、まずわかりにくい造語が多出する。新宗教によくある権威付けのためのものという印象を受けた。
聖書からの引用が多数あったが、教団の教義のためのこじつけのようなもので、内容的にも矛盾が多く、その聖句の歴史的な文脈が押さえられていなかった
この点では筆者が9歳から14歳まで所属し、その後起こった「エホバの証人輸血拒否事件」の解明のため、一年間潜入取材を行うことになった、エホバの証人の方がはるかにましだった。彼らは聖書原本から英訳された「新世界訳」という聖書を持っており、かなりバイアスがかかってはいるものの、その歴史的な文脈を彼らなりに押さえている。