#1「日本では起きそうで絶対に起きないことだった」安倍元首相暗殺、旧統一教会問題、宮台氏襲撃、ガーシー当選…はこちら
2022年上半期に続き、文壇デビュー第二弾の小説『グレイスレス』が、2022年下半期の芥川賞(第168回)に連続ノミネートされた作家・鈴木涼美。
2019年6月から2022年6月まで「週刊SPA!」誌上で連載した時事批評コラムをまとめた『8cmヒールのニュースショー』(扶桑社)発売を記念し、気になる話題について語り尽くしてもらった。
「それはきっと、“キシダさんを救おう”
キャンペーンなんですよ(笑)」
――今年のワールドカップは見ましたか?
私は、スポーツを全然見ないので。ワールドカップも決勝戦の次の日、ニュースで色々騒いでいるのを見て、“へえ、まだやってたんだ”と思いました(笑)。
――日本戦も見なかったですか?
見てないですね。
――ある報道によると、実際には65%程度の人が一度もワールドカップを見なかったらしいです。
日本が初めてワールドカップに出て、ボロ負けしたフランス大会(1998年)の頃、私は中学3年生だったんですけど、そのときの視聴率は全盛期の紅白ぐらいあったんですよ。だからその頃は、本当にみんなが見てたっぽいけど、今回はそれほどでもないんですよね。
でもワイドショーの盛り上がり方は、五輪よりも激しかったと思います。私は最近、午前中になんとなくテレビをつけてたりするので、試合は見てないけどワイドショーの振り返りで把握はしていました。
あと、通っているネイルサロンが、目の前のモニターでワイドショーを流しがちで、一回3時間ぐらいかかるから『ひるおび』とか丸々見ちゃって(笑)。だからその日に『ひるおび』でやってたことだけ、やたら詳しくなるんですよね(笑)。
――ワールドカップ期間中のワイドショーの盛り上がりっぷりは、ちょっと異様でしたよね。
それはきっと、“キシダさんを救おう”キャンペーンなんですよ(笑)。だって、軍事費増強問題とかで支持率がどんどん落ちてる状態でしたから。みんながワールドカップに目を奪われて、テレビも政治の話題を端に追いやったんだから、一番助かったのは岸田首相ですよ。
そりゃ監督に電話しちゃうわと思って(笑)。“ありがとう!”みたいな。
――昨今の岸田政権の支持率低迷っぷりも注目ですね。
岸田政権支持率の顕著な低下は、社会が少し常軌を取り戻した結果だと思います。
安倍政権のときって、明らかなる問題が発覚したときでも、岩盤のように頑丈だったから。その頃と違って今は、人々がきちんと判断をしたくなっている感じがします。
基本的には政権なんて批判するもので、社会が厳しい目を向けるのが当たり前。ここ2〜3年で、そのあたりは少し普通に戻った感じがしますね。
昔の『クレヨンしんちゃん』を見ると、当時の橋本龍太郎首相がキャラクターとして出てくるんですけど、やっぱり悪者扱いなんですよね。すごく偉そうで、蕎麦を食べながら“蕎麦湯もってこい!”って威張っている人物として描かれたり(笑)。
しんちゃんやお友達に“おじさんはみんなの暮らしを守るために頑張っているんだよ”とか言うんですけど、“好きなものはなあに?”と聞かれて、しんちゃんが代わりに“お札束〜”と答えると、うっかり“当たり〜”って答えちゃったり(笑)。政治家なんて所詮そんなもの、という批判精神がありました。
だから今年、いくら亡くなっちゃったからといってタレントがこぞって“アベさん、お疲れ様でした”みたいな感じになったのは、すごく不健全で気持ち悪い。そう言わないと毒殺とかされるの?って(笑)。ロシアみたいで怖いなって思いました。
――そういう時期を経て、現在の支持率低迷に現れる政権批判は正常に近づいている証ということですね。
人々が少しは正常な批判能力を取り戻そうとしている兆しが、見えないでもないかなという感じですね。