【坂口健太郎】『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年/フジテレビ系)

『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(以下、『いつ恋』)は、人気脚本家・坂元裕二による青春ラブストーリー。主演は有村架純と高良健吾。2015年『コウノドリ』(TBS系)で連ドラデビューを果たした坂口にとっては、2本目の連ドラ作品となる。

『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)で一躍、名を挙げた坂元だが、近年は坂元の言葉でいうところの「キラキラ感」のあるドラマからは離れ、軽妙洒脱な会話劇に社会性の高いテーマをまじえた玄人好みの作品が続いている。

この『いつ恋』も、いわゆる月9らしい華やかさはない。

支配的な養父のもとを飛び出し、頼る人のいない東京で介護の仕事に励む杉原音(有村架純)と、祖父が騙し取られた畑を買い戻すために東京で引越し屋の職に就く曽田練(高良健吾)。2人の恋に、月9の定番であるオシャレなマンションやきらびやかなイルミネーションはほとんど見られなかった。

それでも、この『いつ恋』は、ずっと忘れられない初恋のようなラブストーリーだと思う。今でも心に残るのは第3話。横浜に立ち寄った音と練は、とある建物から聴こえるピアノの音に耳をすませる。そこでは、演奏会をやっているらしい。チケットは前売23000円。音と練にはとても手が出せる金額ではない。

でも2人はそれを特に悲観することなく、建物の下で音漏れしているピアノを楽しむ。練はゴミ捨て場の物をどかし、2人分のスペースをつくる。

「Aの15と、Aの16です」

それは、2人だけの架空の指定席だった。クラブで踊ったこともないという2人は、そこでアルプス一万尺に興じる。他人から見たら、何をしているんだろうと思うのかもしれない。周りはゴミ袋だらけで、全然ロマンチックでも何でもないかもしれない。でも、どんな高級レストランより、どんな夜景よりもロマンチックだった。坂元裕二は、そうした2人だけにしかわからない特別な時間を描くのが抜群にうまい作家だと思う。

そんな本作で坂口健太郎が演じるのは、練の悪友・中條晴太。この晴太というのが、ちょっと性格がひねてくれている曲者キャラなのだ。

笑顔は人なつっこいけど、どこか血が通っていない。市村小夏(森川葵)のことが好きなのに、自分のことは好きじゃなくていいと言い、その代わりに小夏の恋を叶えるために、音と練の仲を壊そうとする。たぶんそれは自分が愛されたことがないからだろう。愛されたことがないから、自分にも他人にも価値を感じることができず、人の大切にしているものを平気で踏みにじってしまえる。そんな晴太の心のねじれを、坂口健太郎は笑っていない目で巧みに表現していた。

必見は、最終話。そんな自分の心の脆さを小夏が受け止めてくれたことがうれしくて、晴太は涙を流す。でも、あまのじゃくの晴太は泣き顔を見られたくなくて、ライオンのかぶりものをする。このかぶりものをしたままでのキスは、2010年代連ドラの中でも指折りの名キスシーン。月9の申し子として世に出た坂元裕二がその才を改めて証明した場面であり、その後、『東京タラレバ娘』から『おかえりモネ』までヒロインの相手役を務めるたびに視聴者を沼落ちさせる“ラブストーリーの坂口健太郎”誕生を予感させた瞬間だった。

坂口の他にも、高橋一生、永野芽郁、桜井ユキなどブレイク前の人気俳優が勢揃い。埋もれさせておくには惜しすぎる名作だ。