【中村倫也】『ライフ〜壮絶なイジメと闘う少女の物語〜』(2007年/フジテレビ系)
『ライフ』は、すえのぶけいこによる人気漫画が原作。数々の困難に屈することなくイジメに立ち向かう主人公・椎葉歩(北乃きい)の闘いを描いた友情と成長のドラマだ。そのセンセーショナルな描写で放送当時から話題沸騰。最終回で登場した「おめーの席ねぇから!」がインターネットミームとして放送終了後も広く用いられるなど絶大なインパクトを残した。
『ライフ』がこれだけ反響を呼んだのは、次々と繰り出される残忍なイジメ描写もさることながら、やはり出演者たちの怪優に尽きると思う。それを引っ張ったのが、イジメの首謀者・安西愛海役の福田沙紀と、愛海の彼氏・佐古克己役の細田善彦(当時の芸名は細田よしひこ)だ。
華やかな巻き髪に大きな瞳。人形のように愛らしいビジュアルの福田沙紀がにっこりと微笑んで、歩にクラスメイトを一緒にいじめるように迫る顔は観ているこちらの胃が痛くなるような迫力。歩がイジメの標的になってからはさらにエスカレートし、歩を見下す目は冷血そのもの。途中から完全に演出もホラーになっていて、愛海が突然画面に顔を出すだけで叫び声が出そうになる。映っただけで心臓が縮み上がるのは愛海か貞子くらいです。
細田善彦の目をひん剥いての狂演もちょっとしたトラウマになるレベル。当時若手俳優として売り出し中だった細田にこの役をやらせた事務所もすごいし、やりきった細田もすごい。放送から15年が経った今もなお消えない爪痕を細田は視聴者に焼きつけた。
そんな中、クラスメイトのひとりとして出演していたのが中村倫也だ。
当時の芸名は中村友也。ブレイクまで時間のかかった中村は今作に限らず多数のドラマに出演している。しかし、なかなか日の目を見ることはなく、鬱屈した想いを抱える時期もあった。けれども、たとえメインのキャラクターの背景でしかない人物でも、決してモブにしない。そんな心意気が、当時の演技からもうかがえる。
注目は、そのリアクションだ。中村が演じたのは、クラスメイトの石井知典。女子たちの間で行われるイジメを冷やかし、時には燃料を放り込むキャラクターだが、注意してよく見てみると、実はある一定のラインを超えたときには、ちゃんとドン引きしているのがよくわかる。
たとえば2話で薗田優樹(北条隆博)の腕に根性焼きの痕を見つけるシーン。そのあまりにむごたらしい痕に驚き、薗田の身を案じるような視線を残している。4話で黒板に歩への誹謗中傷が落書きされたときも石井は笑っていなかったし、5話で副担任の平岡正子(酒井美紀)がイジメに関するアンケートを配布したときも、そっと歩を一瞥していた。
常に行動を共にしている遠藤晃一(山田健太)が一貫してイジメを他人事として捉えていたのに対し、石井はレベルを超えた暴力に対しては同調せず、本音ではイジメなどくだらないと思っていた。それが終盤の“革命”のトリガーとなるわけで、もちろん監督からの指導もあったと思うが、全話を通しての自身の役割を中村はしっかり理解し、それに忠実に応えていた。まだ多くの人が名を知らぬ頃から、中村はすでに信頼できる俳優だったのだ。
ちなみに本作のヘアスタイルは、当時の流行を思わせる茶髪のギャル男風。白ベルトもチャラさを引き立てている。こんな中村倫也は今ではもうなかなか見ることができないという意味も込めて、チェックしておきたい1本だ。