問われる「政治」と「サッカー」の境界線
北中米W杯が、思わぬ形で「政治」と「サッカー」の境界線を問われる事態となっている。
発端は、決勝トーナメント1回戦で退場処分を受け、本来であれば次戦出場停止となるはずだった米国代表エースFW・バログンを巡る異例の判断だ。FIFA規律委員会は突如、処分の執行を1年間猶予すると発表し、ベルギー戦への出場を認めた。
この決定が世界に衝撃を与えるなか、さらに波紋を広げたのが、トランプ米大統領がFIFAのインファンティノ会長に電話をかけ、処分の再検討を求めていた事実だった。開催国首脳による働きかけが明らかになったことで、「政治介入ではないか」との疑念が各国から噴出し、大会の公平性そのものが問われる事態へと発展している。
トランプ大統領は6日、インファンティノ会長との電話でバログンの処分について「再審査を求めた」ことを認めた。一方で、「どうしろと指示したことはない」と述べ、最終的な判断はあくまでFIFAが下したものだと強調した。
これに対し、インファンティノ会長も同日声明を発表し、トランプ氏と電話で協議した事実を認めたうえで、「判断は所轄機関が行うと説明した」と説明。「世界中の国家元首や企業経営者から様々な案件について連絡を受けるのと同じことだ」として、決定の公正性を訴えた。
しかし、この説明に納得しない関係者も少なくない。欧州サッカー連盟(UEFA)は6日の声明で、「前例がなく、理解しがたい決定に強い不信感を抱いている」と厳しく批判。
米CNNも「FIFAは政治的圧力の影響を受けたように映る」と報じ、「大会の公正性への信頼を損ない、米国代表のこれまでの戦いにも影を落とす判断だ」と指摘している。
だが、インファンティノ会長とトランプ大統領の“癒着”は今にはじまったことではない。
驚愕を禁じえないニュースが世界を駆け巡ったのは昨年12月5日のこと。インファンティノ会長が、トランプ大統領にFIFA平和賞を授与したのである。
人種差別を厳罰化するFIFAの矛盾
他の候補者も存在しない中、選出のプロセスは公開されず、まさにトランプに授与するためだけに新設された平和賞であった。世界中が注目するW杯北中米3ヶ国大会の組み合わせ抽選会に組み込んだこの授賞式は、FIFAが米国大統領にすり寄るために演じられた茶番であると批判を集めた。
サッカーの母国イギリスの人権団体フェアスクエアは、それまでもインファンティノがトランプの大統領就任式に出席するなど、現在の米国の政策を支持する言動を繰り返していたことを問題視し、「インファンティノは(FIFAの内規にある)政治的中立を無視し、スポーツの利益を損なう動きをしている。これはFIFAの不合理な統治構造によってもたらされた」と指摘している。
他にも矛盾は隠しきれない。これまでFIFAは「Say No To Racism(差別にNoと言おう) キャンペーン」など人種差別を厳罰化した対策を打ち出しており、インファンティノもまた2024年に「人種差別をするサポーターのいるチームの試合は没収すべきだ」と公式Xで声明を発信している。
しかし、平和賞を与えたトランプは「不法移民が住民のペットを食べている」という根拠の無い移民差別の発言を繰り返したり、トランスジェンダーの存在を否定する「性別は男女だけ」という大統領令に署名している。
不条理に満ちたFIFAは今どうなっているのか。断続的な報道に接しているだけでは、その実相を知るのは、困難である。そこで長きに渡り、業務としてFIFAにも直接関わり、現在はFIFPRO(国際プロサッカー選手会)の理事としてそのステークホルダー(利害関係者)の立場から業務に携わる山崎卓也弁護士に話を聞いた。
山崎弁護士は元日本代表の中田英寿氏の弁護士や、日本プロ野球選手会、日本プロサッカー選手会などの顧問弁護士を務め、2004年には古田敦也会長を支え、日本プロ野球界初のストライキを完遂させ、球団減を阻止している。
IF(国際競技連盟)としてのFIFA、選手に対する使用者としてのFIFAを語ってもらう上で恰好の人物である。
――かつてFIFAは日本のスポーツジャーナリズム界隈でポジティブなイメージで捉えられていました。プロ野球界で紛争が起きると、渡辺恒雄読売グループ総帥が、「ジャイアンツをNPB(日本野球機構)から脱退させて新リーグ設立だ」という揺さぶりをかけてきた、その都度、野球界にも世界的に統一されたIF(国際競技連盟)があれば、こういう剛腕オーナーの横暴も阻止できるのに、という論評が流通していました。
FIFAは2015年にW杯招致活動に関する巨額な贈賄事件と脱税が露見しましたが、問題役員は逮捕され、差別撤廃に向けての動きも加速したように見受けられました。新たなガバナンス体制の下で自浄作用に期待する声も大きかったのですが、今この組織はいったいどうなっているのでしょうか。
山崎「確かに国際競技連盟がピラミッド型のエンフォースメントシステム(取り締まり)を持って、横紙破りの分裂運動などを是正して競技を公正に統一して利益を分配するという美しい理念を体現しているのならば、これは素晴らしいものです。
ただそれを運営する人材に問題があれば、独裁に堕してしまうんです。仰るとおり、2015年に大きなスキャンダル、FIFAゲート(汚職)事件 がありました。そこから立ち返って見てみるとよく分かります」













