「遠征の付き添いがなぜ寺尾さん1人だけだったのか」

背景にあるのが部活動の位置づけだ。文部科学省は現行の高校学習指導要領で部活動を「生徒の自主的,自発的な参加により行われる」と記載。スポーツ庁は「教師による献身的な勤務」で成り立っていると記載している。

部活が正規の教育課程に置かれず“生徒の自主活動を顧問が献身的に支えている”ものとみなされているため「管理職は完全に教員任せにするのです」と指摘するAさんが続ける。

「じゃあ教員が喜んでやってるというのかと違います。部活に熱意を持たない先生もやらざるを得ない状況に追い込まれます。

石川県では毎年4月に職員会議で担当する部活の“割り振り”が発表されていました」(Aさん)

私立北越高校(撮影/集英社オンライン)
私立北越高校(撮影/集英社オンライン)

生徒や親からは他校と練習試合をしたいという声も出る。

「練習試合の要求は顧問にはプレッシャーになります。県内の高校だと大会でよく当たるので県外に出ることが多かったです。

そうした練習試合は顧問が企画をして考えたものだというのが学校の考え方で、遠征にかかる費用の会計も高校とは完全に分かれて部内で独立して行なわれました」(Aさん)

強豪校の部活になると顧問の負担も増える。北越高校ソフトテニス部は県内の強豪で、スポーツでの大学進学が視野に入る選手も指導した寺尾顧問は熱心で知られた。

知人は「彼は毎日朝6時半に家を出て帰りは夜10時だと言っていました。部に入ってくる子も親も強くなりたいという思いは強く、それに応えるんだと土日も8時間は練習をしていました」と話す。

北越高校男子ソフトテニス部顧問の寺尾宏治氏(撮影/集英社オンライン)
北越高校男子ソフトテニス部顧問の寺尾宏治氏(撮影/集英社オンライン)

Aさんはいう。

「強豪校の先生は肉体的にもきついし勝ち続けないといけないっていうプレッシャーに押しつぶされそうになってて大変です。

そして今回の事故で、顧問が生徒と一緒にバスに乗らなかったのはあり得ないです。どこでも顧問は2人以上いるはずで、報道のように遠征の付き添いがなぜ寺尾さん1人だけだったのか。頑張ってる顧問だけが追い込まれる構造もあると思いますね。

その結果、教員は一緒に(バスに)帯同して責任を持たないといけないという基本が抜けるという信じられないことになっていました」

と話すのだ。

蒲原鉄道(撮影/集英社オンライン)
蒲原鉄道(撮影/集英社オンライン)
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実はAさんは香川県まで危険な運転をさせられたことについて県知事を相手取った少額の慰謝料を求める訴訟を起こしていた。金沢地裁は校長らの安全配慮義務違反を認めなかったが、疲弊した状態での長距離運転の事実は認めている。

「こういう状態はおかしいとわかってほしくて訴えました。『いつか事故が起きますよ』と裁判官に陳述もしました」(Aさん)

磐越道の事故は顧問がハンドルを握ったバスではなく、顧問として危険な運転をしたAさんのケースとは異なるが両者の根っこは同じだとみるAさんに、では、どうすれば問題は解決するのか聞いた。

「生徒をしっかり守るためにはリーダーシップを誰かがとらなければなりません。教員の運転でもバス会社への発注でも、しっかりしたガイドラインをつくってそれを順守させるよう監督する。そしてできる限り貸し切りバスのプロの運転に任せるようにする。

それができるのは都道府県の教育委員会しかありません。それによって過剰競争が生む無理な遠征も減らすことができ、教員自身も守ることができると思います」

部活動の成績は高校の知名度を上げ、入学を志願する生徒を集める大きな武器になっている。学校がその“果実”を得ながらリスクを顧問だけに押し付けてきたこれまでの構造は、異常というしかない。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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