自らすすんで巻き込まれる人々

山岡 中村哲という、まわりを巻き込む才能を持った人がいて、みんなが巻き込まれるような形になるんだけれども、そうは言っても、ただ一方的に巻き込まれているわけではなく、自分の生き方を考えるわけですよね。

須賀川 そうですよね。自分から巻き込まれにいってますからね(笑)。

山岡 そうそう。例えば、戦場カメラマン志望だった蓮岡修さん。彼は京都の仏教系の大学に通いながら、何度もアフガニスタンに通う。けれども思うように写真が撮れない。何度目かに行った時に中村さんのところに行って「半年ぐらい、お手伝いします」と加わるんだけども、またそこで絶望して帰ってしまう。

その彼が中村さんに対して、ある意味ちょっと意地悪に「アフガニスタンにあれだけの難民がいるのに、なんで先生はこんなところで診療所をやってるんですか?」と聞いたら、一言ね、「わしはバカやけんね」とこう言うわけです。あそこはね、私は書きながら感極まりそうになりました。

山岡淳一郎
山岡淳一郎

須賀川 読んでいていちばん最初に付箋を貼ったところです(笑)。

山岡 あれは小説では書けないと思った。蓮岡さんという人間がいて、中村哲という人間がいて、ふたりの生き方がスパークした瞬間だと思うんです。蓮岡さんはあそこでもう、ワーッと興奮して、この人といっしょにやりたいと思ってしまった。

須賀川 完全に取り込まれちゃいましたね、あの瞬間に。

山岡 それでそのあと中村さんと一緒に井戸を掘り始めるわけです。

須賀川 けれど、あれだけ井戸を掘って、ものすごい貢献をしたのに、蓮岡さんは今度はスパッとやめて僧侶になってしまう。そのあと、アフガンの路上で、子どもたちが絵本に夢中になっているのを見て、絵本のお店をやろうと決心する。この飛躍のしかたも、なんだか、中村さんのDNAをもらっちゃっているような……。