トラウマの治療で再び、性被害に遭ってしまう

20代後半で上京し、生きづらい人を支援する団体で働き始めた坂上美幸さん(仮名=30代)。性被害を訴える相談電話を受けたことで、ずっと封印してきた幼少期の性被害がフラッシュバックしてしまう。

「その後の記憶がなくて、どうやって電話を切ったのか、正直、覚えていないんですよ。家に帰っても、涙が止まらないし、震えも止まらない。

で、大量の市販薬をガッと飲んで。死のうとしたわけじゃなくて、体の感覚を消さないといけないと思って。意識がぼやーっとして、何にも考えずに眠れるんです。吐き気で目が覚めると地獄なんですけどね。

そこからが戦いの始まりでした。やっぱり性被害の相談も少なくなかったんですよ。何を聞いてもフラッシュバックする状態が続いたけど、どうしても支援の仕事を続けたくて職場の人たちには言えなくて……。

別人格を作り上げて仕事を乗り切って、家に帰ると崩れるというパターンでしたね」

坂上美幸さん(撮影/集英社オンライン)
坂上美幸さん(撮影/集英社オンライン)
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仕事を続けたい一心で、トラウマの治療を受けられる場所を探した。そして、ある療法を受けに行き高齢の男性臨床心理士に出会う。自費だと1回1万円かかるが「個人的に治療をしてあげる」と言われ、連絡先を交換してしまった。

「性被害のトラウマは性行為でしか治せないというのがその人独自の理論で。とにかく話がうまい。『結婚や出産をしたいなら、今しかないよ』と言われて洗脳状態みたいになっちゃって。

ただ、やっぱりちょっと触れられただけで、めちゃめちゃパニック状態みたいになっちゃって。そうしたら、やめるんですけど、『死にたい』と希死念慮もどんどん強くなってしまったんです……」

坂上さんは恋愛がうまくできなくて、ずっと悩んでいた。そんな焦りをうまく利用されたのかもしれない。

「死にたい」というワードで検索し、相談ダイヤルにかけると、支援団体や保健所、精神科医につないでくれた。自分の身に起きたことを話すと、誰もが「それは性被害だよ」と断言する。

「何人もの人に言われて、そっか、また私は性被害に遭ったのかと。でも、あの当時、本当に1人だったら命を断っちゃったかもしれないと思うと責めきれないんですよ」

恋愛も不得意だったという坂上さん(撮影/集英社オンライン)
恋愛も不得意だったという坂上さん(撮影/集英社オンライン)

ひきこもることができて、初めて自分の傷やツラさに目を向けられた

しばらく休職していたが復帰のめどが立たず、上京から1年後に仕事を辞めた。まもなくコロナ禍になり、地元に帰ることもできなくなる。貯金は半年で底をついた。

扶養照会をされるのが嫌で生活保護に踏み切れない人は多いが、坂上さんも親には絶対に知られたくなかった。

支援団体のスタッフが区役所に事情を説明してくれ、扶養照会なしで生活保護を受給。それから家にひきこもる生活が始まった。

「生活保護への抵抗はありまくりですよ。本当は一番社会を支えなきゃいけない世代だし、子育てをしている人も多い。なのに、私は両方できていないので、ずっと自分を責めてますよ。

でも、根底には『死にたい』という思いがあって、ずっと生きづらかったのに動き続けてきたんです。自分が崩れると家族が壊れちゃう気がして。それが家族から離れて1人になったときに、もう無理だよって感じで爆発しちゃった。

性被害の記憶も、ずっと意識から切り離していて、記憶を押し込めている自覚すら持てなかったから、治療につながることもできなかった。

ひきこもることができて、やっと、自分の傷やツラさに、自分自身で初めて目を向けることができたんです」