対米“87兆円投資”の実像と高市外交の本質

難関の日米首脳会談を乗り切った割に、さほど内閣支持率があがらない。理由はさまざまあろうが、一つには高市早苗内閣の本質が徐々に見えてきたからではないだろうか。

首脳会談で話題に上った87兆円(5500億ドル)という途方もない米大統領ドナルド・トランプへの朝貢も、その実態が明らかになってきた。企業がこれほど巨額の投資に付き合うのはなぜか。

この手の事業は本来、民間企業の判断で採算を弾いて投資するものだが、87兆円の中身を見ると、投資リスクを払拭できない。にもかかわらず日本の名だたる企業が投資を決めた理由は、政府の保証があるからにほかならない。

たとえば日本側の日立製作所などは最大6兆3000億円もの資金を投じ、米重電大手GEベルノバとの合弁で次世代原子炉「小型モジュール炉」(SMR)を建設する。

しかし世界中で試行錯誤を繰り返しているSMRは、ロシアや中国といった稀なケースを除いて実用化の目途すら立っていない。民間企業がそんなリスキーな事業に乗り出す裏には、政府系金融機関のお守りがあるからだ。

高市内閣では2025年12月23日、政府の100%出資する特殊法人「日本貿易保険」(NEXIに3兆円の枠組みを上乗せすると発表している。そのうえで訪米直前の日本時間3月19日には、「国際協力銀行」(JBIC)が対米投資に関する資金管理の枠組みを一般会計に設ける閣議決定をした。

平たくいえば高市政権は、「対米投資が焦げ付く危険性があるが、そのときは日本国民の血税で補うから安心してほしい」と呼びかけ、日本企業に安心材料を与えたわけだ。そこまでしないと実現できない前代未聞の海外投資ということなのであろう。

昨年10月に日本でおこなわれた前回の首脳会談で用意した「ノーベル平和賞の推薦」の世辞に続き、今度の訪米では「世界に平和と繁栄をもたらすのはドナルドしかいない」としな垂れかかった。

これについては、戦争を始めたトランプへの皮肉として肯定的に評価するいうトンチンカンな見方もある。だが、これまでの言動や政策を踏まえると、女好きな大統領への抱き着き戦法としか思えない。G7をはじめ世界中の首脳がトランプの言動に眉を顰めるなか、日本の首相だけが上目づかいですり寄っているのである。

2026年3月19日、ホワイトハウスの夕食会での高市首相とトランプ大統領。写真:AP/アフロ
2026年3月19日、ホワイトハウスの夕食会での高市首相とトランプ大統領。写真:AP/アフロ
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これもまたSNSで多くのファンを引き入れて日本初の女性宰相に昇りつめた高市政権の特徴ではある。そこは外務省も十分承知しているようで、ある元外務官僚は日米首脳会談の感想を次のように吐露する。

「トランプのことをドナルドとファーストネームで呼ぶのは、外務省も納得しています。だからあの場面では周囲も頷いていました。けれど、それだけに過ぎません。こと外交となると、海外の目は手厳しい。

高市総理は意識的に官僚のアドバイスを無視するきらいがあります。ノーベル平和賞の推薦や台湾の存立危機事態発言などはその典型でしょう。イラン問題が焦点となってきたけれど、外交上は何の進展もありません」

うまく乗り切ったと自画自賛する日米首脳会談は、結局のところイラン問題を話し合うわけでもなく、先延ばしにしてひたすら貢物を並べたに過ぎない。外交上、相手国への貢献は必要だが、そのリターンがなければ国益にならない。高市政権には果たして内閣を支える知恵袋がいるのか。