ロスジェネ世代の貢献

山岡 そうそう。それから、中村さんが江戸時代の資料から見つけてきた工法を用いて、マルワリード用水路の実現に貢献した鈴木学さん。彼は大学の工学部で水需要予測の研究をしていたのですが、アフガニスタンの苦境を知り、なんとかしたいと思う。だけどその手立てがない。悩んだ末に、中村さんの著書を読んで感動し、現地へ入ってなんとかしよう、となる。この飛躍がおもしろいわけです。

須賀川 みんな飛躍しますよね。中村さんがそうさせちゃうんですかね。

山岡 しかも彼の場合は、工学部で土木に関する知識もあり、中村さんからするといちばん欲しい人材でしょう。それがたまたま迷いこんでくる。小鳥が迷いこんできたと思ったら、とんでもない、鷲じゃねえか、みたいな感じでね(笑)。ふしぎなめぐり合わせだけど、こうやって人と人はつながっていくんだなと思いましたね。

須賀川 鈴木さんも蓮岡さんも、ぼくより少し上の、ロストジェネレーションと呼ばれる世代の人たちで、時代の空気はなんとなくわかります。

須賀川 拓
須賀川 拓
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山岡 いわゆるロストジェネレーションは、就職氷河期世代で苦労された方が多いんだけれども、ある意味では、それまでの枠にとらわれないで動ける部分もあった。仕事がなかなかないから、逆にそう動かざるをえないところもあったでしょうけど。極端に言うと「日本に居場所がもうないかもしれないな」ぐらいに思っていた人たちがポンと海外旅行の気分で行った先で、中村さんと出会って、医療の仕事や、さらに大きな意味で人の命を救う井戸掘りや用水路の仕事を展開していく。この人たちに出会えなかったら、中村さんの事業はどうなっていたでしょうか。

須賀川 とてもあそこまでのことはできなかったでしょう。いまの時代だと彼らのように三々五々でぷらっと来て、ぷらっといなくなるような行動はなかなかとれないんじゃないでしょうか。電話一本で「お宅の息子さんしばらくあずかりますから」ってならないですよね。

山岡 人間と人間のつながりが、変にデジタル化されておらず、余裕があった気がします。

須賀川 のりしろが広かったですよね。ある意味、中村さんのこの事業は時代とすごく流れが合ったのかもしれない。

#2に続く

※『kotoba』2026年春号より転載

構成/前川仁之 撮影/松田嵩範

炎と水 中村哲と名もなき人たちの旅
山岡 淳一郎
炎と水 中村哲と名もなき人たちの旅
2026/2/26
2,860円(税込)
452ページ
ISBN: 978-4087817744

父は共産党活動家、母は玉井組の親方の娘。15歳で自らの意思で洗礼を受け、学生運動で検挙された青春時代……戦乱と大旱魃のアフガニスタンで90万人以上の命を救い、2019年12月、正体不明の武装集団の凶弾によって命を落とした医師・中村哲とは、いったいどんな人間だったのか。その生涯にわたり中村が巡り合い、深く関わった様々な人びと100人以上に著者はインタビューする。福岡、鹿児島、岡山、静岡、神奈川、東京、パキスタン、そしてアフガニスタンと約5年に及ぶ取材を敢行。群像のなかから鮮やかな「人間・中村哲」の姿を立ち上がらせる。大勢の人生を巻き込み、滔々と流れる大河のような中村哲を源流までさかのぼり、生い立ちから死まで描いた驚くべき本格的評伝、圧巻の452ページ。今こそ読まれるべき「人間・中村哲」の真実。

【目次】
プロローグ 水が天に昇る谷
第一章 革命の炎
第二章 同志
第三章 浸礼――永遠の別れ
第四章 青春漂流
第五章 失われた世代
第六章 空爆とナン
第七章 冬の陣
第八章 口紅
第九章 カカムラ!
第一〇章 帰還
あとがき 神と出会った男、神になりたかった男

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