「金太郎、きれる。」(集英社文庫・コミック版2巻収録)
金太郎が名言を連発する神回
『サラリーマン金太郎』には、令和のネット文化にまで影響を与えたセリフがある。おそらくネットをそこそこあさっている人なら、一度は見たことあるセリフだろう。
それが19話に登場する主人公・矢島金太郎のセリフだ。
「屋上へ行こうぜ……久しぶりに……キレちまったよ……」
キレたときのAA(アスキーアート)としてネットで使われ続けてきたこの名言。AAの元ネタは、漫☆画太郎が描いたパロディ作品『珍入社員金太郎』なのだが、このパロディされた元ネタこそ、『サラリーマン金太郎』第19話なのである。
第19話では、突然ヤマト建設に乗り込んできた、やたらと体格の良い男が金太郎を殴り飛ばす。事情の説明もなく、一方的な暴力。すると金太郎は静かにキレる。背後からデスクチェアを振り下ろし、言う。
「屋上へ行こうぜ……ひさしぶりに……きれちまったよ……」
鼻血を流しながらも、その目は冷たい。怒りは爆発しているのに、言葉は低く抑えられている。この温度差が、読者に強烈な印象を残す。
だが、なぜ屋上なのか。実はこれ、90年代企業文化の空気を映した場面でもある。
当時は多くのオフィスビルで屋上への出入りが比較的自由だった。喫煙や休憩の場として使われることもあり、いまのように安全管理の観点から常時施錠されているケースは少なかった。だからこそ、平成初期の漫画やドラマの定番の一つだった「屋上で決着をつける」という展開が、違和感なく成立していたのである。
さらに、この回で殴り合う相手はただの乱暴者ではない。関東の総会屋を束ねるフィクサーの側近で、元警視庁逮捕術ナンバーワンという設定の強者だ。会社、警察OB、総会屋――当時の社会構造が背後に透けて見える。
それでも金太郎は言い放つ。
「死ぬほどきれえだ てめえらみてえな一方的にふるまう奴らがよォ」
相手が「いるもんだぜ、世の中にゃ、こういうバカが」と挑発すれば、「バカじゃねえよ。人に殴られて黙ってすますほどな……」と返す金太郎。このやり取りに、彼の信条が凝縮されている。
ネットでよく見かけるこのセリフ。だが本編を読むと、その背後にあるのは、会社という組織の中でも筋を通そうとする男の覚悟が詰まっている。























