「金太郎、砕かれる。」(集英社文庫・コミック版7巻収録)

仕事のすべてを台無しにされたとき

生きていれば、うまくいかずに絶望することがある。とりわけ社会人にとって、会社での失敗や理不尽は、悔しくて悲しくて、すべてを放り投げたくなるほど堪えるものだろう。だが、そう思った時にこそ、この回を読みたくなる。

『サラリーマン金太郎』第64話では、サハラの地で工事を進めてきた金太郎が、ようやく終わりの見えてきた仕事を、戦争によって一気にひっくり返される。

2年半もかけて続けてきた工事だった。やっと終わる。やっと日本に帰れる。そんなところまで来て、現場は戦場に変わり、砲撃を受ける。金太郎は、その光景を前に絶望する。そこで武装集団に囲まれ、銃まで突きつけられる。すると金太郎は叫ぶ。

「これは俺が建てたんだ! 俺が命がけでやった仕事だ!」

この言葉には、ここまでの2年半が全部入っている。散々な目に遭いながら、それでも逃げずに続けてきた仕事……、この工事は金太郎にとって人生の一部だったのだ。

だからこそ、それを壊された金太郎は半ばやけになったように口にする。「知ったこっちゃねえっ! 殺したきゃ殺せぇーっ」「あぁーっめんどくせえーっ 死んでやらあーっ ちくちょおおーっ!」と。

だがここで、現地同行人のハシリが金太郎を殴る。そして怒鳴る。

「もう一度言ってみろ! めんどくせえから死んでやるだ!? なめんじゃねえ! 死にたくなくても死んだ人間が山ほどいるんだぞ! 平和ボケした日本人野郎が、簡単に死ぬなんてことを口にするんじゃねえ!」

サラリーマンの金太郎にとっては、この工事がすべてだった。しかし、この土地で生きるハシリにとっては違う。政治が不安定で、戦争が起きて、本当に死がすぐそばにある場所で生きてきた人間にとって、あくまで仕事は生きるための手段の一つだ。

だから仕事がダメになったくらいで、「死ぬ」という言葉を使っていいわけがないのだ。

生活が仕事でいっぱいになり、仕事に飲まれそうなときほど、ハシリのこの言葉を思い返し、冷静に自分の人生を見つめていきたい。