「男たちの正念場。」(集英社文庫・コミック版2巻収録)
30年前から変わらないパスワードとの格闘
「クソッ! たった8バイトのガードがなぜ破れない」
『サラリーマン金太郎』第17話で石川が、会社に忍び込んでパスワードの解除に挑んでいる際に飛び出すこのセリフに、強烈な時代の匂いを感じる。
いまの感覚なら、8バイト? 短すぎないか? と思うだろう。だが1990年代前半にとっての「8バイト」は、今とはまったく意味が違った。
まず、当時のパソコンの性能を思い出してみたい。
1990年頃の家庭用PCは、CPUが数MHz~十数MHz、メモリは1MB前後。ハードディスクは数十MBあれば高性能とされた時代だ。データのやり取りは1.44MBのフロッピーディスク。インターネットもまだ一般的ではない。
そして忘れてはいけないのが、当時の通信手段だ。1990年代前半、まさに漫画の舞台となっている時代に若者のあいだで急速に普及したのがポケベル。初期は数字しか送れず、表示できるのは数十桁の数字のみ。
「0840(おはよう)」「4649(よろしく)」といった語呂合わせで会話していた。1994年頃からはカナ表示対応機種も登場したが、それでも送れるのは40~80文字程度。データ量にすれば数十バイト規模のやり取りだった。
一方、現在のスマートフォンはメモリ8GB~16GB、ストレージは128GB以上が当たり前。1GBは約10億バイトだ。写真1枚が数MB、動画なら数百MBになることもある。それを何のためらいもなく、ポンポン送り合う。
もちろん、石川自身も「たった8バイト」と言っている以上、当時でもそれが巨大なデータだったわけではないが、今の感覚からすると、さらにすさまじく軽い数字に思えるだろう。
だが、わずか30年で容量が10万倍以上に膨れ上がったにもかかわらず、いまでもテレビドラマなどでは、誰かがパソコンに向かってカタカタとキーボードを叩き、「パスワードが破れない」と汗をかくシーンを見かけることがある。
数字が大きくなっただけで、やっていることはあまり変わらない。その光景が、なんだか少しおもしろい。さて、石川が盗もうとしているファイルとは――それは第17話で。























