「金太郎、大いにもてる。」(集英社文庫・コミック版2巻収録)

金太郎が女を二人同時にフる

モテ男・矢島金太郎が、またモテている。異なるタイプの女性から同時にアプローチを受けた金太郎は、いったいどうしたのか。

ある日、退社した金太郎を会社の前で待っていたのは、学生服姿の女性。大和会長の孫・有希だ。

「金ちゃん! なんで出てくれないの……何度も電話しているのに……」
「女の子の方から電話かけるのがどれだけ勇気がいるか、金ちゃんわかる……?」

いきなりの猛攻。

どうやら以前、崖から車ごと転落しそうになった有希を、裸の金太郎が救出した一件以来、すっかり惚れ込んでしまったらしい。少女の決死の告白である。

だが金太郎は、表情一つ変えない。そしてこう言い放つ。

「おらぁ不器用でよォ、気のねぇ女に気のある素振りはできねぇんだ」

かっこよすぎる。

金太郎の辞書に“キープ”という文字はないのだろう。曖昧に期待を持たせることもしない。というか、スーツ姿で退社してそのまま制服姿の女性とデートに行ったら、それはそれで大問題なのだが……。

さらに、有希をフった後に、金太郎に声をかけてきた女上司からのアプローチに対しても、

「あんた俺のタイプじゃねえんだ……じゃあ……」

と、さわやかにかわす。ぶれない。

平成初期の職場といえば、社内恋愛は決して珍しくなかった。同じ会社の人間同士で結婚するケースも多く、飲み会文化も今より濃い。距離は近く、関係も曖昧になりやすい。

だからこそ、“とりあえずキープ”という立ち回りも珍しくなかったはずだ。だが金太郎は違う。

好意を利用しない。期待を持たせない。優しくしない。残酷に見えるが、実はこれが一番誠実だ。

そして皮肉なことに、こういう男ほどさらにモテる。

金太郎は、2年前に亡くした明美を今も想い続けている。「俺は喪中だ」といって恋愛をしようとしない。その一途さ、その不器用さが、結果として色気になってしまうのだろう。

『サラリーマン金太郎』第14話は企業クーデターが動く回でもある。だが同時に、“男の誠実さとは何か”を描いた回でもある。