イスラエルとパレスチナのパビリオンは 

もうひとつ、一方的に攻められている「国家」として、モンズD館のパレスチナのパビリオンにも足を運んでおきたい。パレスチナを国家として承認していない国も多い中で、パレスチナに国と同格の展示を認めているのは万博事務局の英断であったと言える。

パレスチナも、当然のことながら廃墟や瓦礫を見せるわけにもいかず、風光明媚なパネルを中心に展示を構成するわけだが、私の興味を引いたのは「3分で簡単な説明をさせていただきます」という案内であった。

若い女性が、それほどこの地に関心のなかった人たちを相手に、ガザにおける平和な人々の日常生活が危機にさらされているという状況を短い時間で見事に解説していた。被害に関する直接の映像資料もない中で、あれだけの熱のこもった話は見る者の胸を打つ。

実はイスラエルはコモンズC館にパビリオンを出しており、両館は比較的近い距離関係にある。イスラエルがまさかガザのジェノサイドについて触れるはずもなく、どういう展示をしているのかとパビリオンを覗いてみると、嘆きの壁にメモを挟んでくれるサービスが行われており、筆者は「パレスチナに平和を」と書いてみた。

実行された時点で私にメールで連絡が来るそうなので楽しみにしているが、はたして約束は果たされるのであろうか。

イスラエルの展示
イスラエルの展示

万博をダークツーリズムの視点から観る人もあまりいないと思うが、複雑な国際関係を念頭に置きつつ回ってみると、それはそれで現代世界の行き詰まりが感じられるかもしれない。

ただ、小中学校が遠足や修学旅行先として万博を訪れる場合は注意が必要だろう。事前学習であてがわれた国が尋常ではない独裁体制を敷いている可能性もあり、何のために万博に行くのか意義がわからなくなるかもしれない。

小中学生がインターネットで調べて「この国では大量虐殺が行われています」というレポートを出してきた時、彼ら彼女らの胸中に深いトラウマが刻まれてしまわないかと懸念する。

国家と国家の対立の中で多くの命が奪われている現状下、関西万博のスローガンである「ぜんぶのいのちと、ワクワクする未来へ。」が逆説的に感じられ、悩みを深めながら夢洲の会場を後にした。

文/井出明