「脱力的な独裁国パビリオン」
エコノミスト誌ランキング下位グループで出展が確認できるのは164位の中央アフリカであり、「やっと独裁国の展示に出会える」と駆けつけてみると、2つあるブースのうちの一箇所は、コーヒー袋が4つ展示されているだけであった。
それもそのはず、中央アフリカでは現政権とまさにその独裁体制を打ち負かさんがための民主化勢力との間で激しい内戦が起きており、外務省の海外安全情報においてもレベル4の「退避してください」が発令されたままである。
このような状況下で、一応万博に協力してくれた現政権は義理堅いという感じがしなくもなく、遠く日本の地から平和を願わずにいられない。中央アフリカ以外にも、万博では極端に手を抜いたような展示の独裁国パビリオンにしばしば遭遇するが、本国事情を鑑みればやむを得ないのではないかと同情を禁じえない。
民主主義指数が非常に低いラオス(160位)の展示にも足を運んでみた。その展示で象徴的なのは援助を軸とした日本との関係性が強調されていた点であった。
独裁国の政治体制の維持温存に日本の税金が使われてよいのかという問題もあるが、我々の払った税金の行く末が確認できるという意味では、こうしたパビリオンも意味があるかもしれない。
私は仕事柄よく海外に行くが、日本政府は奥ゆかしいというか、かなりの対外援助をしているにもかかわらず、現地でも日本国内でもあまりアピールしていない。
今回、業者への工事費未払いのためにパビリオンが完成せず、ようやく工事再開となったネパールでは、2015年の地震の際に日本、アメリカ、中国などから大きな支援を受けているものの、現地で観光客の目に入るのは米中からの支援実績ばかりで、日本の貢献はほとんど確認できない状況であった。
関西万博で日本の国際貢献がより可視化されるのであれば、万博への反対の声も弱まるかもしれないが、残念ながらそうした外交戦略の場として、この地はあまり上手く活用されていない。
被害国の状況
独裁状況の他に、戦争の被害についても万博で確認できないかと探ってみた。地球上には一方的な侵略を受け、虐げられた状況になっている地域は数多くあるが、その中でも日本人に馴染みが深いのはウクライナであろう。
ウクライナのパビリオンは、コモンズC館に入っており、一見したところかなり地味であった。しかも館内がさして混雑しているようには見えないのに30分以上待ちだそうで、はてどうしたものかと思っていたところ、展示を体験してみて疑問は氷解した。
展示全体のコンセプトが“Not For Sale(売り物ではない)”とあり、その内実が何か気になっていたのだが、ぬいぐるみや調度品などの展示物のバーコードにおもちゃの銃を向けて読み取ると、小さな画面に戦禍のウクライナが表示される仕様であった。
さすがにお祭り状態の万博会場で血まみれの写真を掲示するわけにもいかないであろうし、この国の気概と工夫が感じ取れる良い試みであった。参加者は熱心に画面の内容を読んでいたため、「ウクライナの自由と民主主義は誰にも渡さない」というメッセージが来場者の胸に深く刺さったのだと思う。