「金太郎、大物に会う。」(集英社文庫・コミック版2巻収録)

約束の時間の30分以上前に到着する大物

『サラリーマン金太郎』第22話で印象的なのは、三田善吉という男の所作だ。

料亭に現れた大和会長に仲居が告げる。「お待ち申し上げておりました。先生、お待ちでございます」

ここで大和会長はひやりと汗を流す。というのも、まだ約束の時間まで30分はある。敬意を払うべき相手に対して、余裕を持って早く来たつもりが、すでに相手のほうが早くついていたのだ。

続けて仲居が言う。「三田先生はどんな場合でも、相手の方より先にお見えになります」

この一文だけで、三田善吉という人物の格と性質が伝わる。説明はほとんどない。まだ顔すら出していないのだが、この情報だけで、三田善吉という男の支配力を感じられる。

令和のビジネスマナーでは、企業訪問や商談は5~10分前が目安とされる。15分以上早い訪問は、相手の準備を乱す可能性がある。Web会議なら時間ぴったりが基本だ。「早すぎない」ことが礼儀とされる時代である。

だが三田は違う。30分以上前に座敷に入り、待つ。誰よりも先に入って待つ。

これは単なる几帳面さではない。時間を使った駆け引きだろう。

通常、待たされる側は心理的に不利になる。だが三田は逆に、待つことで余裕を示す。とりわけ面白いのは、彼が“偉い側”の立場であるにもかかわらず早く来ることだ。格上なら遅れても許されるはずだ。あえて遅れて威厳を示す選択肢もある。だが三田はそうしない。

礼を尽くしながら、主導権を握る。

料亭という閉ざされた空間、静かな座敷、約束より30分早い到着。第22話は、殴り合いよりも静かな緊張に満ちている。この三田の手法、実生活で一度くらいは、ここぞというときに試してみたくなる憧れのテクニックである。

果たしてこの三田善吉とはどんな男なのか。詳しくは第22話でぜひ。