沖縄戦での日本軍の行動を美化しようとする政治家の発言の背景には「根拠がなくても堂々と主張すれば騙せる」という“悪しきトレンド”がある
太平洋戦争末期、激烈な地上戦が行われ20万人以上が犠牲になった沖縄戦から、今年で80年。「台湾有事」が取りざたされる今、沖縄を含む南西諸島では自衛隊基地が新・増設され、ミサイル配備も進んでいる。その一方で一部の政治家による沖縄戦での日本軍の行動を正当化する発言も物議を醸した。沖縄戦研究の第一人者である林博史氏と、昨年『従属の代償 日米軍事一体化の真実』(講談社現代新書)を上梓し、長年、自衛隊問題を調査しているジャーナリスト布施祐仁氏が、沖縄戦と自衛隊、米軍、そして「台湾有事」について語り合った。
「明治以来の栄光ある日本の歴史を汚そうという者は全て潰した。残るは沖縄だけだ」
林 その後、1980年代ぐらいから「日本の加害責任」というのが問題になり始めて、90年代になると日本軍の元慰安婦だった人が名のり出るとか、アジア各地での日本軍の被害者が名のり出て日本で裁判を行うようになって、「戦後補償」が大きな問題になってきます。
それに対して90年代中頃からワッと巻き返しが起きて、日本軍を正当化する論が一気に社会の表面に出てくる。
その後、日本のアジアに対する侵略戦争の問題は、いわゆる右からの巻き返しによって、戦後補償裁判は基本的に全部、原告、つまり訴えた側が負けて、日本の侵略戦争に伴う被害の問題については、ほとんど運動もなくなってしまった。
ですから、そういう歴史修正主義的な歴史観を持っている人々にとって、唯一残っている「敵」が沖縄なんです。「日本軍が民間人を犠牲にした」という歴史の見方が強固に残っているのが沖縄なので、この沖縄戦の認識さえ潰せば「日本軍の悪口を言う者は全部潰した」という状況に今なりつつあるのではないか。
写真/Shutterstock
そういう意味で、「明治以来の栄光ある日本の歴史を汚すような歴史観を持っている沖縄」に対して、攻撃を向けてきているのではないかとも考えられます。
今の南西諸島の軍事化という背景も重なっていると思いますが。そういう動きに対する批判という意味でも、今このタイミングでこの本を出せたのは、すごくよかったと思います。
構成=稲垣收
2025年4月17日発売
1,243円(税込)
新書判/352ページ
ISBN: 978-4-08-721360-7
県民の4人に1人が犠牲になった沖縄戦から80年。
膨大な史料と最新の知見で編み上げた沖縄戦史の決定版!
1945年3月末から約3か月間にわたり、米軍と激しい地上戦が繰り広げられた沖縄戦。
軍民あわせ約20万人もの命が失われた。戦後、日本は平和憲法を制定したが、沖縄は米軍の軍事支配に委ねられ、日本に返還後、今なお多くの米軍基地が存在している。
また、近隣国を仮想敵とし、全国で自衛隊基地の強靭化や南西諸島へのミサイル配備といった、戦争準備が進行中である。
狭い国土の日本が戦場になるとどうなるのか? 80年前の悲劇から学び、その教訓を未来に生かすために、国土防衛戦の実相を第一人者が膨大な史料と最新の知見を駆使し編み上げた、沖縄戦史の決定版。
2024年09月19日
1,078円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4065325308
「安全保障を専門とするジャーナリストとして20年以上活動してきた中で、
今ほど戦争の危機を感じる時はありません。」
日本がいつの間にか米国のミサイル基地になっていた……政府の巧妙な
「ウソ」を気鋭のジャーナリストが見破る!現代人必読の安全保障論。
「いま、人知れず大変な事態が進行している。米軍が日本全土に対中戦争を想定した、核を搭載可能なミサイルを配備しようとしているのだ! しかも今後、日米の軍事一体化が「核共有」まで進めば、米軍は密約により、その核ミサイルを自衛隊に発射させることも可能になる。この未曾有の難局に、私たち日本人はいったいどう対処すればよいのか? 第一人者布施祐仁による驚愕のレポートと提言に、ぜひ耳を傾けてほしい」
――矢部宏治氏(『知ってはいけない』)
「布施祐仁は、戦後日本の対米従属の戦慄すべき帰結を容赦なく暴き出している。世界の火薬庫と化しつつある東アジアで、我々は戦争屋のお先棒担ぎになるのか、それとも平和の架け橋となるのか、決断の時はいまである」
――白井聡氏(『永続敗戦論』)
● 「台湾有事」をシミュレーション 日本への影響は?
● 日本にミサイルが配備される可能性
● 自衛隊が「米軍の一部」に…「非対称」な軍事関係
● 広がる米中間の溝 核軍拡競争の時代に逆戻りか
● 政府による巧妙な嘘…「核持ち込み密約」の真実
● 「日本有事」を防ぐために――日本がとるべきミサイル・核政策とは?
「戦後安全保障政策の大転換」
その正体は、終わりなき軍備拡張と米国への従属だった――
現代を「新しい戦前」にしないために
オリジナルサイトで読む