「若い人はマッチングアプリで出会うのは普通のことらしいよ」
彼女にフラれ、薄毛に悩みはじめた主人公トリタニノブヒコ。
38歳会社員の彼が新たな女性と出会う機会を考えたとき、まず頭に浮かんだのは「マッチングアプリ」だった。ところが、ここで1つ問題がおきた。僕自身はマッチングアプリを使ったことがない。すでに結婚しているし、結婚前はマッチングアプリというものが、今ほど一般的ではなかった…そういう世代の人間なのです。
世間のウワサやネット知識で、なんとなくどんなものかは知っているつもりだけど、あくまでそれは“つもり”であって、そのままマンガにしようとすると、現実ではありえない間違いを描いてしまう恐れがある。
取材が必要だ。一番早いのは実際にアプリをダウンロードして使ってみることだが、既婚者はアプリに登録することができないらしい。当然か。
そこでまずは、友人知人の中に体験談を聞かせてくれる人はいないかとSNSやメッセンジャーアプリで呼びかけてみた。だが、誰一人として手を上げてくれる人はいなかった。ほぼ同年代の人ばかりなので仕方がないかもしれない。薄毛の悩みや治療の体験談に関しては、こちらから強く呼びかけるまでもなく「実はオレも…」「うちのダンナも…」と告白してくれる人がいたのに…。
仕方ないので、<マッチングアプリを使っている人を知っている同世代>を探すことに切り替えると、こちらはすぐに見つかった。別の仕事でお世話になっているHさんの会社に、マッチングアプリで出会った女性と近く結婚する20代の男性がいるという。
「どうやら若い人の間では、マッチングアプリで異性と出会うのは私たちが思っている以上に普通のことらしいよ!」
「マジっすか!?」
「最近の若いモンは!」である。とうとうそういう年齢になってしまったのだと実感した。もちろん今までも自分より若い世代の人たちと、ギャップを感じることがなかったわけではない。しかし、これはなかなか決定的なものだった。
僕が最初にインターネットに触れたころ、夢中になったのは個人サイトの日記やブログを読むことだった。自分と同じ普通の人々の内面を知れることが新鮮で、やがては自分と同じ本を読んだり音楽を聞いたりする人たちとメールや掲示板を通じてやりとりをするようになった。さらには実際に会い、話し、語り合うようになり、親しく付き合う仲間もできた。
だが、そんな僕たちに上の世代の人たちは「理解できない」と眉をひそめた。特に両親は「素性もよくわからない人と会うなんて」「詐欺にあったり、ネズミ講にでも誘われるんじゃないか」などと心配した。
気がつけば僕も同じことを言っていたのだ。
「アプリでどこまで相手のことがわかるんですかねえ」「マルチ商法の勧誘とか怖いじゃないですか」とかなんとか。
人との出会い方はこれからも変化していくのだろう。やがては自分の息子が、今では想像もつかない方法で出会ったパートナーを連れてくるかもしれない。そのとき僕は彼らを抵抗なく迎え入れ、笑って言ってやれるだろうか。
「君たちのお父さんとお母さんは、mixiで出会ったんだよ」