沖縄での日本軍による殺戮は、「例外的なもの」ではなかった
布施 最近、自民党の西田昌司議員、参政党党首の神谷宗幣議員らが沖縄戦の史実を歪め、日本軍を美化する発言を行い問題になりました。両議員とも、沖縄戦の際に「日本軍が沖縄県民に対して悪いことをした、というような歴史認識は“自虐史観”であり、問題だ」「日本軍も沖縄を守るために命がけで戦ったんだ、そこにしっかり光を当てるべきだ」というような考えだと思います。
神谷議員は、「基本的に、沖縄県民を守るために日本軍は戦ったんだ。一部例外として住民を虐殺した兵士もいたけれども」というようなことを言っていますが、これはまさに歴史の歪曲です。
両議員には、「まずは林先生のこの『沖縄戦』を読んで!」と強く言いたい。日本軍による住民虐殺は決して「一部の例外的なもの」などではなく、本当にいろんな場所で行われたという事例が数多く示されています。あちこちで日本軍による住民虐殺や住民の「集団自決」という悲劇が起きてしまった根っこには、通底する問題があったわけです。それもこの本の中で説明されています。
林先生はどんなふうに、これら政治家の発言を受け止められましたか?
「根拠がないことも堂々と主張すれば影響力を持ってしまう」という恐ろしさ
林 これまでの日本軍を正当化する議論の仕方というのは、それなりに資料を調べていて、たとえば日本軍の文献とか資料だとか、場合によっては証言を集めながら、「仮に問題が一部あったにしても、日本軍は全体としていいんだ」という言い方をしてきていました。
資料や証言をそれなりに自分で取材して集め、それで議論をしていたので、それに対して、「いや、この資料の読み方は違う」とか、「もっとこういう資料がある」とか、「もっとこういう証言がたくさんあるのを無視しているじゃないか」という反論の仕方が可能だったんです。
しかし今回の西田議員の発言も、神谷議員の発言も、根拠を示していないんです。自分の頭の中で作り上げたイメージで語っているだけで。
それに対しては、「事実はこうだ」ということは言えるんですが、たぶん今のネット社会での宣伝の仕方においては、「事実とか根拠は、もう必要ないんだ」というふうになってしまっている。ともかく「自分で思っていることを大きな声でどんどん繰り返していけば、それを信じる人々が出てくる」というやり口です。
従来なら研究者がきちんと事実に基づいて反論して、それなりに議論にはなり得たんですが、今回の場合はそうではない。そういう意味で、すごく怖いですね。ネットや街頭演説などで根拠がないことを堂々と言っていると、ある程度の影響力を持ってしまう。これは非常に心配です。こういう新しい状況に対して、どういう対処の仕方をすればいいのか?
たぶんこれはトランプ現象や、兵庫県知事関連の問題にも通じています。実証的にやっている研究者としては、そこにどう対処していくかが、なかなか難しい。そこはいろんな知恵を集めて、ネット問題などにも詳しい方の力も含めて対応しないといけないと思います。
布施 まったく同感です。ナチス・ドイツの宣伝大臣だったヨーゼフ・ゲッベルスも「大きな嘘を頻繁に繰り返せば、人々は最後にはその嘘を信じるようになる」と語っていたそうですが、今はSNSや動画投稿サイトを通じて誰でもそれができてしまう。デマやフェイクニュースは民主主義と平和をどんどん壊していくので、対応が急務だと思います。
とはいえ、今回の西田議員の発言に対して沖縄のメディアをはじめ多くの人がしっかりと「それは事実ではない」と反論し、部分的にも発言を撤回させたことは非常に重要だったと思いますね。
林 たしかに、そうですね。