痛感する神宮球場の不便さ

――再開発に関しては反対を訴える声もニュースなどでよく取り上げられていました。

そうですね。再開発が事実としてあって、それに対して反対運動が起きている。そのなかで当初は自分の立ち位置がよくわからなかったんです。

残してほしい、という素朴な思いがある一方で、毎日のように神宮球場へ通っていて、観戦に不都合な部分もたくさん見てきたからです。

他球団の球場に行くと、特に比較的最近できたマツダスタジアムや楽天モバイルパーク宮城はスゴいと感じていたし、当時はまだありませんでしたが北海道にメジャーのようなボールパークができる(エスコンフィールド北海道)という話もあった。「それに比べて神宮は……」みたいな感情もちょっとあったんですよね。

――具体的には?

度重なる改修の継ぎ足しによって幅、高さがまちまちな階段につまずいて転んだり、ビールをこぼしたりする人を見るのは日常茶飯事ですし、車椅子の方へのバリアフリー対応はほとんどなされていません。

前後、左右のシートピッチは非常に狭いため窮屈な思いでいつも観戦しているし、敷地も限られていることから試合終了後のコンコースや球場外周の混雑もスゴい。車と人が混在する歩車分離もなされていない。

――神宮に足繁く通うファンならみんなが感じていることですね……。

選手目線で見ても、球場内にグラウンド以外に練習するスペースがないから、近くにある軟式野球場や室内練習場でアップしてから徒歩数分かけて球場入りしなくてはいけない。ヤクルトは毎年のように故障者が多いと言われますが、こういう不便な環境も遠因になっている気がしています。

もちろん、その動線で選手と触れ合えるのがヤクルトと神宮球場の良さでもあります。
僕も小さい頃にそこで大杉勝男選手に頭を撫でてもらったことは、40年以上経った今でも鮮烈に覚えてます。けれど、それで村上宗隆選手や長岡秀樹選手といった今の人気選手がケガでもしたら本末転倒だし、ずっとどうにかならないかなと思ってました。

1931年に現在の形となった神宮球場の外周。車歩分離がなされておらず、試合後は人でごった返す(撮影:佐藤創紀/朝日新聞出版写真映像部)

1931年に現在の形となった神宮球場の外周。歩車分離がなされておらず、試合後は人でごった返す(撮影:佐藤創紀/朝日新聞出版写真映像部)

――それも出版の動機のひとつだと。

はい、ノンフィクションライターとしての性というか、自分の考えだけじゃなくて、「他の人はどう思ってるんだろう?」って知りたかったんです。だから、神宮球場に縁のある人たちに再開発についてどう思うかを聞きまわりました。

そして、取材を進めるうちに、神宮球場はやっぱり建て替えるべきだと思うようになりました。

――なるほど。

「ただの環境破壊だ」と主張する人もたくさんいます。けれども、その一方では、かなり綿密な計画のもとで再開発のプランニングがなされているということもこの本を通して知ってほしいなと思います。

もちろん、まだ完成イメージも発表されていないので今の計画がベストかどうかはわからないですし、それがファンや選手をないがしろにするようなものだったら、「それは間違っている」と声をあげたいと思っています。