税金で購入された美術品に、まさかの“贋作”疑惑

贋作の疑いがある作品の一つは、キュビスム(立体派)の一翼を担ったフランスのジャン・メッツァンジェ(1883-1956)が1912年に描いたとされてきた『自転車乗り』という55×46センチの作品だ。徳島県立近代美術館が、1999年に大阪の画商から6720万円で購入している。

徳島県立近代美術館が所蔵する『自転車乗り』(写真/同美術館提供)
徳島県立近代美術館が所蔵する『自転車乗り』(写真/同美術館提供)

もう一つは、高知県立美術館が所蔵する、ドイツ表現主義の画家ハインリヒ・カンペンドンク(1889-1957)の作品とされてきた69×99センチの油彩画『少女と白鳥』。

この作品は、1995年にオークションに出品されたもので、同美術館の依頼を受けた名古屋の画廊が入手し、1996年に美術館側に引き渡された。購入代金は1800万円だった。

いずれも四半世紀以上にわたり所蔵されてきた作品だが、なぜ今になって贋作の疑いが生じたのか。そして、それが事実だとすれば、作者といわれる「ヴォルフガング・ベルトラッキ」とは何者なのか?

「2008年、カンペンドンクの作品とされてきた絵に、制作時期には存在しなかった塗料が使われていることが発覚したことを機に、多数の作品に贋作疑惑が浮上しました。その多くの制作にベルトラッキ氏がかかわっていたことがわかり、美術界の一大スキャンダルになったのです。

ドイツ検察の捜査で、贋作は100点以上あるとの疑いが出ました。検察は、そのうち14点を偽造した詐欺罪でベルトラッキ夫妻らを起訴。本人は2011年に懲役6年の判決を受けて服役し、すでに出所しています」(国際部記者)

天才贋作師といわれるウォルフガング・ベルトラッキ氏(本人Facebookより)
天才贋作師といわれるウォルフガング・ベルトラッキ氏(本人Facebookより)

この国際的な美術市場を揺るがせた大事件を取材した米CBSテレビは、世界にある有名画家の作品のなかに、どれほどベルトラッキ氏の贋作が紛れ込んでいるかを調査した。これが、今回の問題発覚の端緒になったのだ。

「CBSはベルトラッキを追う番組をつくり、ウェブサイトにもその内容を記事としてアーカイブしています。そのサイトのトップに『自転車乗り』が、2番手に『少女と白鳥』の写真が掲載されています。
アーカイブは2014年8月に開設されているため、この2作品はベルトラッキの作品だと、10年前から美術界では認識されてきたようです。

今年6月4日、このアーカイブに掲載されている『自転車乗り』が徳島県立近代美術館の所蔵作品であると気づいた人が、美術館に知らせてきた、という経緯です」(社会部記者)

高知県立美術館が所蔵する『少女と白鳥」』(写真/同美術館提供)
高知県立美術館が所蔵する『少女と白鳥」』(写真/同美術館提供)

高知にある『少女と白鳥』は、かつて徳島県立近代美術館の展示に貸し出されたことがあった。関係者によると、「CBSのサイトに『少女と白鳥』も掲載されていることに徳島の方が気づき、高知にも連絡が来た」という。

こうして、2つの作品がともに贋作である可能性が浮上したのだ。