「証拠はない」とするも「俺が言っているんだから、間違いない」

前編で紹介した徳島県立近代美術館と高知県立美術館が所蔵する問題の2作品について、 ベルトラッキ氏は、「私の絵だ」と日本メディアの取材に答えている。

それだけでなく、日本にはフランスの女性画家マリー・ローランサン(1883-1956)の作品と偽った自分の絵もあると彼は言い始め、波紋はさらに広がっている状況だ。

彼が指摘するのは、1910年ごろの作品とされる『アルフレッド・フレヒトハイムの肖像』だ。しかし、絵を所有する東京のマリー・ローランサン美術館(2019年に閉館)の吉澤公寿・元館長は「ベルトラッキ氏は証拠を示しておらず、贋作とは認められない」と話す。

「問題発覚後の7月に、テレビ局が間に入って、オンラインで彼と直接話をしました。そのとき彼は『1988年にこの絵を描き、英国の画商に売った』と主張したのです。

しかし、私が『1988年の何月に描いたのか?』と尋ねても、何も答えない。なぜこの点が重要かというと、私どもは1989年1月にこの絵を購入しているんです。通常、油絵の具は乾燥するまで1年程度かかります。彼は1988年に描いたと言っていますが、購入時に『絵の具が新しい』などの不審な点は見当たらなかったんです」(吉澤氏)

天才贋作師といわれるウォルフガング・ベルトラッキ氏(本人Facebookより)
天才贋作師といわれるウォルフガング・ベルトラッキ氏(本人Facebookより)

すると、ベルトラッキ氏は「自分は絵の具を古く見せ、匂いもなくし、早く乾かす技術を持っている。それは他の人にはわからない」と主張したという。

そこで、吉澤氏が制作時の写真などの証拠があるかと尋ねると、ベルトラッキ氏は「ない」と答えつつも、「俺が言っているんだから、間違いない」と言ったという。

「購入時、この絵は“ドイツ人のコレクターがフランスの画廊に売り、それが日本の画商を通じて私どものところに入ってきた”という『来歴』がつけられていました。そこには、ベルトラッキ氏が主張する英国の画商は出てこない。来歴をつけることは、取引における道義です。フランスの画廊は欧州でも非常に有名で、その道義を裏切ることは考えられません。

基本的に彼の主張は『俺は天才贋作師なんだよ。一流の研究者や画商を騙せるテクニックが、俺にはあったんだ』というものです。

こうなると、彼の言葉の信頼性はなくなってしまいます。なので、作品の再調査は行ないません。ただ、展示するときには『ベルトラッキ氏が自分の作品だと主張している』という程度の説明は付けるつもりです」(吉澤氏)