球界再編騒動で暗躍した“ナベツネの傀儡”
選手会を見守りつつ、自らのチームの繁栄にも注力する。東尾、太田、立花田淵、森、松沼兄弟、秋山、工藤、郭、伊東、清原、渡辺久、辻……。
当然ながら両者は決して対峙するものではない。筆者は坂井のバックボーンを知りたくなった。野球と言う文化を消費物にせずに公的な存在として位置付けていくに至った精神的な土壌はどういうものであったのか。
「僕の親は九大の医学部出身でね。小児科の医師だったんだよ。かつて小児科医は子どもをなだめるのが仕事みたいに思われて蔑まれていた。医局でも外科や内科が花形とされてね。でも父親は子どもを治療することに誇りを持っていた。
僕も医者を継ぐのかと思っていたんだけど、それは自由にさせてくれた。お前は俺の魂を継いでくれたらそれでいい、と。父は医者でありながら、医者ではなく、医学的な人間を育てないといけないと言っていた。お前は、社会における医師を目指せ、とね」
2004年にオリックスが近鉄と不明瞭な球団合併な話を秘密裏に進めていることが露見し、選手会が立ち上がった。いわゆる球界再編問題である。この理不尽な動きに対し、中畑から数えて5代目となる古田敦也プロ野球選手会会長は、組合員の賛成多数でスト権を確立していた。
ところが、渡邉恒雄の傀儡と言われていた根來泰周コミッショナー(当時)が、この選手会の動きを封じるために暗躍していた。
根來は「私には裁く権限が無い」と裁定を避けていたその裏で各球団のオーナーに向けて、マル秘文書を発信していたのだ。坂井はそれを入手していた。タイトルは「統合、1リーグ制についての意見」と記されており、以下のような経営側に露骨に加担する文言が並んでいた。
「選手会なるものが、ストライキを企てているが、その場合は球団はストによって発生した損失のすべてを、選手会に求めることができる」
「評論・言説をなす者は、『選手・フアンの意見の聴取』と言って合併反対を言うが、思い違いだ。法治国家として許されることではなかろう」