今年1月に発生し、3月にSNSなどを通じて「炎上」ともいえるような形で世に広まった「みそ汁へのネズミ混入」事件に続き、別店舗で害虫が商品に混入していた事件を受け、決定された今回のすき家の「全店閉鎖」。
国内チェーンにおける全店閉鎖は、これまでほとんど例がない異例の対応だろう。それだけに、発表後からネットやSNSを中心に「全店閉鎖」という言葉が一人歩きしているような印象を受ける。
では、この決定の背景にはどういった事情があり、そして、すき家は今後どうなっていくのか。
「全店閉鎖」をなぜ決定できたのか?
大前提として、「全店閉鎖」は倫理的に考えて「するべき」対応だろう。
ネズミ混入という類を見ない異物混入があったことに加え、害虫混入も同時期に発覚(ちなみに、この害虫はゴキブリのことらしい)。すき家の衛生イメージが最悪になっていることは言うまでもない。
「みそ汁へのネズミ混入」は、店員の目視ミスが原因だったとされている。だとすれば社員・店員・アルバイトへの全てにわたる再教育が喫緊の課題となる。
とはいえ、問題は「全店閉鎖」に踏みきるまでのハードルの高さ。その難しさは、主に次の2点に集約される。
①一定期間でも店舗を閉鎖することはその期間分の売上・利益はゼロ。期間中の人件費を考慮すると、大幅な赤字が予想される。
②そもそも、国内に約2000店舗あるすき家を一斉に閉鎖すること自体が難しい。
という点だ。ただ、これらを乗り越えられる要素をすき家は持っているのではないのだろうか。
全店直営、海外事業好調が追い風に
まず「全店閉鎖」について意外と知られていない事実だが、すき家は全店が直営店である。つまり、フランチャイズ店がないので、本部の指示が各店舗に直接届く指揮系統になっている。
フランチャイズ店では、それぞれの店舗運営はフランチャイズオーナーの意向に左右されやすい。特に店舗売上に直結する店舗閉鎖の場合、首を縦に振らないオーナーも多いだろう。
しかし、すき家の場合は全てが直営であるので、今回のような全国一斉での施策を行ないやすい体制が整っていたのだ。
売上・利益の問題についても、他の企業に比べるとすき家には利点がある。というのも、すき家を運営するゼンショーホールディングスは海外でも稼ぐ「グローバル企業」に変わってきているからである。
2025年3月期第2四半期の決算によれば、すき家を運営するゼンショーホールディングスのグローバルファストフードの営業利益は約222億円。これは、全体の営業利益(約580億円)のの約38%の割合)を占めている。前年同期でこの割合は約18%だったので、海外事業の比率が高まっている過渡期といえるだろう。
また、閉鎖期間についても4月4日までの4日間であり、深刻な経営ダメージはないと経営陣によって判断されたと思われる。
いずれにしても、現在の衛生イメージの悪さと、利益へのダメージを天秤にかけたとき「全店閉鎖」こそが最適解だという判断が下されたと考えられる。