露骨な選手会潰しに対する激しい怒り

しかし、メジャーリーグでは過去8回もストに及んでいるが、一度も損害賠償請求をされた事例はない。ましてやこの時の日本の選手会のストは年俸交渉を目的としたメジャーのそれとは異なり、オリックスと近鉄の選手を救うことを目的にしたものである。 

東京高検検事長というキャリアを持ち、本来であれば、リーダーシップを発揮し、プロ野球を縮小させることになる合併を止めるべき立場にある根來の行いについて坂井は自著「プロ野球血風録」に以下の様に記している。 

「コミッショナーという権威者から、選手のストは違法だ、損害を請求できると言われれば、だれがそれを疑うか。私は紙を持つ手が震えた。これは組合潰しの悪辣なファッショではないか。経営者に対する教唆、あるいは扇動ではないか。わが国プロ野球の健全な発展、社会への貢献を保護、監督すべきコミッショナーたる人のすることか、と私の怒りは沸点に達した」 

「なんという幼稚な、居丈高な言い回しだ。外部から評論するものは、法治国家として許されない存在だという。してみると新聞記者も解説者も評論家も私もみな犯罪者だというのか。慄然とする。これが国家が育てた“優秀”とされる法務官僚なのか」 

2004年は坂井が球団経営から身を引いてすでに10年になっていたが、組合潰しに対する激しい怒りが迸っている。いかに選手会労組を重要に思っていたかの証左であろう。 

坂井保之氏
坂井保之氏
すべての画像を見る

「先人の歴史はしっかりと把握して、分類して、名前をつけて功績を記録として残さないといけない。それを後輩たちが、学んでいく。普遍的な記録を記さないといけないといけないよ」 

そんな坂井のエールを受けて自宅を辞した。 


取材・文/木村元彦