「犯罪になる」不倫と「犯罪にならない」不倫

銃の所持と違い、「不倫は犯罪か」と人々に聞くと、聞かれる側が日本人であろうと、米国人・中国人であろうと、皆同じく笑いながら「道徳的にはよくないかもしれないが、犯罪ではない」と答えるだろう。

自由を至上価値の一つとしている資本主義の日本や米国では、不倫だけで犯罪として糾弾されることがないのは勿論だが、統制や管理を原則とする社会主義の中国でさえ、最近は不倫が大ブームになっており、不倫をすることが本当の富裕層の一員、上流社会の一員である証とさえ意識されている。

また最近の中国では、汚職が極めて大きな社会問題であり、かつ普遍的な現象でもあるが、汚職で摘発された男性幹部(公務員)の場合は言うまでもなく、女性幹部の場合も、ほとんど皆同時に不倫をしていることが露見する。

そのため、不倫は汚職のきっかけで、汚職するのは不倫のためである、とまで言われている。

日本では80年前まで「不倫」は犯罪だった!? 大正時代には10000人以上が起訴された姦通罪とは?_1
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姦通は明確な犯罪行為だった

しかし、時代の時計を数十年ないし百年ほど前に戻すと、事情が一変する。配偶者のいる者の不倫は、過去の用語では姦通であり、その意味は、ただ倫理・道徳に反するという軽いものより、はるかに深刻なものを含んでいた。

かつての日本・米国・中国のいずれにおいても姦通は犯罪とされ、厳しい刑罰を科せられていたのである。

日本の『六法全書』を開き、刑法第183条を見て目に付くのは、そこにはタイトルの「姦通」だけがあり、他の部分が全て空白になっていることである。

しかし、空白になったのは1947年のことで、それまでの条文は次のようなものであった。

「有夫の婦姦通したるときは2年以下の懲役に処す。其相姦したる者、亦同じ。前項の罪は本夫の告訴を待て之を論ず。但本夫姦通を縦容したるときは告訴の効なし」。

この規定から分かるように、日本では従来、特に夫のいる女性が不倫した場合、姦通罪として処罰されることになっていた*1。実際、戦前の有名な詩人・北原白秋は姦通罪で逮捕されている*2。

実は、戦前の日本では、多いときには年に数百人以上(例えば明治30年は753人、大正11年は11167人)、少ないときでも数十人以上が(昭和に入ってから)、姦通罪で起訴され、裁判にかけられていた*3。日本で姦通罪が廃止されたのは80年ほど前のことにすぎない。

最も自由な国と思われる米国でも、姦通罪は、軍人の犯罪と裁判を定めている統一軍事裁判法上と宗教色の強い幾つかの州法上に今でも存在している。

州法上の姦通罪はほとんど適用されていないが、統一軍事裁判法上の姦通罪は、軍の規律を維持するために時に適用され、毎年、十数人ないし数十人の軍人が有罪判決を受け、軽い刑罰を科せられている。