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対談は後半戦へ。さらに深くなってきます。
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カテゴリーが違っても指導法は同じ。人を見るだけだから

風間 (日本サッカー協会公認)S級ライセンスのカリキュラムで4月、カナダに行ったんだよね。

中村 そうです。ビクトリアにあるカナダ1部のパシフィックFCに行ってきました。きっかけは5年前、川崎フロンターレの職員だった方がカナダにいたので、旅行がてら会いに行ったことがあって。当時はできたてほやほやのチームだったので、今どうなっているんだろうっていう興味もありましたから。2026年にはカナダを含めた北中米でワールドカップが開催されますし、カナダ代表は先のカタールワールドカップでも出場していたので、カナダのサッカー自体に対する関心もありました。もちろん欧州のクラブへのインターンを考えたんですけど、シーズンも終盤でなかなか難しいということだったので。
 

風間 出来上がったクラブじゃなく、これからのところのサッカーやその環境を見ておくっていう楽しみ方があると思うよ。

中村 まさにそうでした。現地では、試合に向けた1週間のチームのつくり方を見せてもらって、練習前のスタッフミーティングや練習後のフィードバックにも参加しました。試合も含めて2週間半、それを毎日。とても勉強になりました。

風間 違う環境で知らない人と出会えたり、知識を持てたり、そういう経験をするだけで十分だと思うよ。

中村 風間さんは昨年「風間塾セレッソ大阪指導者養成所」を開校して、指導者養成にも力を入れています。
 

風間 やっぱりサッカーの本質を徹底的に追求していくなかで、メソッドとしてどう起こしていくか、そして、そのメソッドをどう選手たちに伝えていくか。この2つがサッカー指導者の技術だと俺は思っていて。ここを頭のなかでしっかり理解してもらう取り組みの一つですね。

中村 凄く興味あるなあ。風間さんはトップカテゴリーのJリーグを筆頭に大学、アカデミー、女子、指導者など、いろんなカテゴリーで指導されてきています。カテゴリーによって指導法を変えたりはするのですか?

風間 (指導のやり方は)どこも一緒。人を見て、やるだけだから。全員を見るし、だからこそ、その目がしっかりしていないとダメっていうのはあるよ。たとえば子供の指導でも、一番目立っている子がいて、目立たないけど実は一番うまい子がいるとする。それぞれをどう触ったら、どうなるかっていうのを瞬時に判断しなきゃいけない。
 

中村 一人ひとり違いますからね。自分は監督という立場を経験していないので個々にアドバイスする形が多いですけど、どうやって選手の潜在能力を引き出してあげられるかというのは意識しています。風間さんが言うようにアプローチの仕方で全然変わってくると思うので。フロンターレのアカデミーでも(テクニカルアドバイザーを務める)中央大学でも、『ドラゴンボール』に出てくるアイテムのスカウターじゃないですけど、見たら大体その選手が持つ要素がピピピと分かるじゃないですか。何が足りてなくて、どうすれば良くなるかもこっちとしては見える。でも、選手自身でそこに気づいたほうがいいからズバッとは言わないようにしています。その選手が何を考えて、何が見えて、どうしたいのかをちゃんと聞いたうえで、自分の言葉にして伝えるようにはしていますね。

風間 「お前のターンはいつもクセでこうなっているぞ」とか「半歩位置を変えるだけでプレーが違ってくる」とかは、もちろん個人的に言います。でも、あるひとりに対して言っていることは、結局全員に言ってるんだよね。フロンターレ時代も、チームで一番ボールを扱える憲剛に「ボールが止まってないぞ」と伝えたら、みんなが自分のこととして聞く。止めるってどういうことなのかみんなに共通の言葉と共通の目を持たせることができる。
俺はサッカーの技術を「止める」「蹴る」「運ぶ」「受ける」「外す」「見る、見ない」というの6つに定義化して、それらを今は数値で基準化した。映像とか測定とか周りにいろいろ協力してくれる人がいるいから助かっているし、伝える術も増えている。

中村 風間さんの指導法にみんな興味を持ってます。だからそうやって協力する人が集まってくるんでしょうね。

サッカーは遊び。遊びの頂点は驚きだからこそ勝ち負けだけじゃなく“何を求めて戦ったか”が一番面白い【中村憲剛×風間八宏対談 後編】_2

デモンストレーションと言葉と映像の3つで選手に伝え、基準を変えていく

風間 (指導者としての)憲剛の強みは、実際にプレーで見せることでできるという点。デモンストレーションできる力があると、やっぱり説得力が違ってくるから。

中村 そうですね。「パススピード!」と言うだけでは足りないんですよね。僕が実際にパスすると、選手も分かったっていう顔をする。昨年、S級ライセンスの講習の際、守備をテーマに指導したんですね。ただ攻撃のパススピードが遅くて守備の練習にならないから、笛でピッと止めて、パッとデモンストレーションしたら、みんな意識してやるようになったんです。

風間 それができるから、パス1本で守備を改善しようっていうアイデアが生まれる。デモンストレーションでパンと見せてやると、練習の空気も変わる。それも伝え方の一つだから。指導者として違いを出せるところでもあると思う。
 

中村 たとえば、みんなのパスの速度が時速20キロだとして、それじゃ全然遅いって実際にパスを見せて分かってもらう。最初は「そんな速いパスを要求されるのか」という顔をしていても、みんなこだわって向き合っていくと次第にそのスピードに近づいていくんですよね。いきなりは変われないけど、日常の基準が変わっていけば自然とそうなってくる。だから今、どんどんプレーや判断のスピードが上がっています。もちろん風間さんから学んだことではあるんですけど、選手たちの基準を変えられるかどうかが指導者の大切な資質の一つなんだなって身を持って感じています。

風間 デモンストレーションと言葉と映像、この3つがあれば選手には伝わります。基準を変えられたら、もう全然違ってくるから。

中村 言葉での使い方も気を配っています。その選手がどういう子なのか、どれくらい言えば分かってくれるのか。顔を見たり少し話をしたりすれば大体分かりますから。風間さんの影響なのか、僕も横文字はあまり使わないですね。

風間 単純に(日本人選手には)日本語のほうが分かりやすいからね。伝えたいものが伝わらなかったら意味がないわけだから。