サッカーは遊び。遊びの頂点は驚きだからこそ勝ち負けだけじゃなく“何を求めて戦ったか”が一番面白い【中村憲剛×風間八宏対談 後編】_3

風間八宏が想像するサッカー界の未来とは?

中村 風間さんはこれからのサッカーはどうなっていくと考えますか?

風間 サッカーの本質を見て、その質自体を上げていくというところに目を向けたら、まだまだやることってあるんじゃないと思うね。今のサッカーよりもまだ速くなるだろうし、求められる選手も変わってくるんじゃないかな。

中村 風間さんは使わないインテンシティっていう横文字がありますけど。

風間 今季のブンデスリーガで無敗優勝したレバークーゼンにジャカという中盤の選手がいるでしょ。ほかのクラブだったら彼を使わないっていうほうが多いかもしれない。あれだけ才能があっても単純に走るスピードがないっていう理由で。でも(レバークーゼンのように)周りがパスのコースを取ったり、相手を前に来させないようにしたりすれば、真ん中にいるジャカにスピードなんか必要ないんだよ。
 

中村 僕もフロンターレで3-4-3をやったときに風間さんに言われました。「前、後ろ、横はみんな足速いから、お前は真ん中でどっしりしてればいい。歩け」って(笑)。インテンシティとか走行距離とか言いますけど、やっぱり一番はボールをどれだけ正確に操れるかだと僕も思います。

風間 それらが大事というのは、相手がミスするからっていう発想に立つからなんだろうけど、本当にうまくなったらミスなんかしない。そうなったら運動量なんて発揮させてもらえないから。ボールを持って、強いパスを点で出せて、みんながそうやってサッカーしたら相手は絶対に追いつけない。だからこそ開発の余地はまだまだあるんだよ。見るべきは、明日の相手じゃないんです。ずっと自分たちが戦える術をつくっていくのがチームだと思っていて、いつでもどんな相手であっても戦えるように準備をすることしか俺は考えていない。まあ、ずっとそうなんだけど(笑)。

中村 その意味でも風間さんが南葛SCでやろうとしていることは、興味しかないです。クラブの公式YouTubeチャンネルで配信している指導の動画も拝見していますけど、この要素の練習増えたなとか、フロンターレでは言ってなかったなとか、新しい発見があります。ただ、付け足されてはいても、根本はまったく変わってない。先日、電話で話したときに「練習、(動画で)結構見せますね」と言ったら、「見たとこで分かんねえだろ」と(笑)。

風間 そうそう。指導者が(本質を)見えているかどうかだから。
 

中村 だから視聴している指導者の方が安易に真似するのは危険ですね。同じ練習をして、たとえ同じことを言っても、多分違う現象になるので。あの指導ができるのは結局、風間さんしかいない。それと、動画を見てオッと思えたのは選手以外の人たちにも教えていること。クラブとしてのカルチャーをつくろうとしているのが伝わってきます。

風間 女子やユースを含めていろんな指導者がやってくるからね。自分としてはメソッドがだいぶできてきたから、興味あるところがあれば海外に伝えたっていい。南葛からは(トップチームの監督も、テクニカルダイレクターも)両方やってほしいという話でオファーがきたし、世界で有名な『キャプテン翼』のチームなんだから世界にも出やすい(笑)。面白いことがやれそうだなって思ったから引き受けたんです。

中村 自分にとっても面白いこと、ワクワクすることだから……実に風間さんらしい(笑)。サッカー専用スタジアムの計画も進んでいると聞きました。
 

風間 それも楽しみだよね。観客はスタジアムで何が楽しいかと言ったら、自分たちができないようなプレーを見ようとやってくるわけです。どれだけ凄いことをやってくれるのかっていう。フロンターレでも〝川崎劇場〟って呼ばれたけど、そういう最後まで何が起こるかわからない感動みたいなものがあればスタジアムに足を運んでくれる。サッカーは遊びなんだから、やっている選手も楽しんでプレーしないと。そういった空間をつくるには、結局、技術を高めなきゃいけない。遊びの頂点にあるのが驚きだと俺は思うから。だから勝ち負けにこだわるだけじゃ面白くない。何を求めて戦ったかが、一番面白いところなんじゃないかな。

喜怒哀楽の「怒」はもう必要ない時代。もっと肩の力を抜いていい。

中村 サッカーを観る文化も変わってきているように感じます。

風間 そうそう。たとえばドイツでも俺たちがプレーしていたころはスタジアムには警察犬がいっぱいいた。火つけたり、騒いだり、過激なサポーターがいっぱいいたからね。でも今は子供たちがいっぱい観に来ていて、シェパードもいない。みんなで楽しむように欧州自体のサッカー文化が変化してきているし、進んでいるなって思うよ。だからこの葛飾区を中心とした南葛SCという新しい場所で、そういう文化をつくっていければいいよね。もちろん負けたら悲しい気にはなるんだけど、喜怒哀楽でいう「怒」はもう必要ない時代になっているんじゃないかな。日本も、もっと肩の力を抜いていい。肩の力が入り過ぎているようにも見えるから。

中村 風間さんの話には、ちゃんとしたストーリーがあるんですよね。楽しくなきゃダメじゃんっていう根本が明確だからこそ、フロンターレに来たときも選手もスタッフもみんな割と早く乗っかることができましたから。
 

風間 お客さんが感動して帰ってもらえれば、そのときの選手の高揚感を見ることができたら、監督としてはメチャメチャうれしいわけよ。そこを求めるクラブがいっぱい出てきたらいいなっていうのは個人的に思う。

中村 ずっと言ってますもんね、それ。

風間 名古屋グランパスの監督になったときも「俺は勝ちに来たんじゃない。豊田スタジアムに4万人を入れに来た」と言って、一応はそのとおりにしたから。

中村 「勝ちに来たんじゃない」って普通は言えないですよ。

風間 いや、そう言って具体的な数字を出すほうがクラブスタッフもみんなその目標に動いてくれるから。
 

中村 南葛での風間さんの取り組みはもう楽しみでしかないですね。

風間 俺としては、憲剛の監督を早く見たい。

中村 本当にプレッシャーでしかないですよ(笑)。

風間 ツネ(宮本恒靖)が日本サッカー協会の会長になって、憲剛たちも指導者になって、もう新しい時代が始まっていると思う。俺らの時代は基礎を一生懸命つくってきたり、いろんなものを掘り起こそうとしたりしたけど、憲剛たちは知識を持っているところからサッカー界に入ってきている。そういった人たちが中心となった動き出すこと自体、日本サッカーの成長につながるし、変化していくんじゃないかな。

中村 風間さんの時代からすれば僕らの情報量は確かに多いかもしれない。でも今の子供たちはそれこそ数倍多いですよ。

風間 確かに。セットプレーなんて選手たちのほうがよく知ってるから、南葛では、コーチと選手たちに「セットプレー委員会」をつくらせたくらいだから。
 

中村 若い選手は彼らのなかで引き出しがどんどん蓄積されていますからね。だから指導者としては彼らの持っているものを開いてあげることも、本当に今の時代のやり方かもしれませんね。

風間 憲剛は自分の発想を持っている人なので、どういうふうに指導者としてそれを表現してくれるのか、凄く楽しみ。情報をもとにしてというより、その情報にはない新しいものつくっていってくれるんじゃないか、と。日本の指導者がそうなっていけば、自ずとJリーグも世界から注目されると思うから。プレー同様に頭も柔らかいし、面白いサッカーをやってほしいな。自分が楽しめるサッカーを、ぜひ!

中村 またまたハードルが上がった(笑)。でも風間さんにそう言っていただいて本当にうれしいです。いっぱい金言をいただいたので、メモしておこうって思います。

サッカーは遊び。遊びの頂点は驚きだからこそ勝ち負けだけじゃなく“何を求めて戦ったか”が一番面白い【中村憲剛×風間八宏対談 後編】_4
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【ケンゴの一筆御礼】

風間八宏さんは、僕の頭のなかを書き換えてくれた存在です。引退してからも何度かお話させてもらっていますが、現役時代同様いつも刺激を与えてくれます。余計な予備知識を入れないで臨むほうが、スッと言葉が胸に入ってくるんですよね。まさに今回の対談でもそうでした。風間さんが投げかける言葉をインプットしつつ、自分がどんなレスポンスができるのか。常に思考を巡らせておかなければならず、風間さんの練習と同じでちょっと頭が疲れましたね(笑)。
会ってお話するたびに、自分の考え方も整理できます。風間さんからいただいた言葉を励みに、指導者として頑張っていきたいとあらためて思うことができました。南葛SCでの風間さんも楽しみしかありません。またゆっくりとサッカー談義に花を咲かせられたらと思います。ありがとうございました。

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取材・構成/二宮寿朗 撮影/熊谷貫

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※「よみタイ」2024年6月16日配信記事