近くの病院のロッカーもバールのようなモノで荒らされていた

土砂に飲み込まれた我が家を呆然と見つめていた水口さんだったが、すぐに近所の人たちの安否が気になった。

「周囲を見回すと同じ集落の知人が6人ぐらい避難しようとしているのが見えたので、大声で叫んで合流しました。私は携帯も家で充電中で、財布ともども取り出せないまま、みんな土砂で埋もれてしまいました。でも、命は救ってもらえた。年金生活なので仕事の問題もないし、充分です。今は近くの公民館に避難して生活していますが、水と食料は不足していますね。昨日食べられたのはにぎりめし一個でした」

焼け野原となった輪島の町(撮影/集英社オンライン)
焼け野原となった輪島の町(撮影/集英社オンライン)

救助を待つであろう行方不明者については、こう思いを馳せた。

「タケチさんは瓦屋さんで、去年11月に母親を亡くしたばかりでね。まじめな働き者で、地震の直前にも雪かきしてるのを見かけたんだ。マガリダさんの旦那さんは足が悪くてふだんは家にいて仕事はしてなくて、奥さんがパートのようなことをしてました。地震が起こった時、息子さんは仕事で家を出ていたから無事でした。本当に早く全員見つかってほしいと思って、今日も様子を見に来たんだけど……」

一方、避難所では被災地を荒らし回る「泥棒」の“噂”が絶えないという。

「地震に便乗した火事場泥棒みたいなのも増えてるみたいで、近くの病院のロッカーもバールのようなモノで荒らされたって聞いたね。幸いなにも盗まれなかったけど、近所に住んでいるウチの息子の自宅のドアノブも誰かに壊されて勝手に入られていて...。とくに避難所で噂になっているのが、他県のナンバーの車に乗った男4人組。こいつらが車に乗って周囲を物色してたらしくて、みんな心配してるよ。本当に最低な連中だな」

倒壊した家屋(撮影/集英社オンライン)
倒壊した家屋(撮影/集英社オンライン)

阪神大震災や東日本大震災などの被災地を取材してきたベテランジャーナリストが補足する。

「この4人組が泥棒なのかは定かではないが、大きな災害ではボランティアや野次馬、そして我々報道も含めた多くの“知らない人”が被災地を出入りする。そうするとこの手の噂や犯罪の噂を必ず耳にします。バールは救出の際に使われた可能性もあるし、4人の行動も誤解だった可能性もある。だが、家や家族を失い、極限状態にある被災者を不安にさせる行動は絶対とってはいけない」