海外展開では手痛い目に遭ったキリン

ただし、アサヒグループホールディングス全体の業績は極めて良好だ。2022年12月期の売上高は前期比12.3%増の2兆5111億円、2023年12月期は同7.1%増の2兆6900億円を予想している。2023年12月期の売上高は、2019年12月期を3割程度上回るものだ。

特に好調なのがヨーロッパとオセアニアだ。2023年1-9月のヨーロッパの売上高は前年同期間比20.1%増の5244億円、オセアニアは同9.9%増の4442億円だった。

アサヒはオーストラリアのカールトン&ユナイテッドブリュワリーズを買収し、ヨーロッパのビールメーカーも次々と傘下に収めた。2009年から縮小する日本市場からの転換を掲げ、海外のM&Aを積極化していた。その成果が出ているのだ。

その一方で、キリンは海外のM&Aで手痛い目に遭っている。ミャンマーで合弁会社ミャンマー・ブルワリーを立ち上げたが、クーデターが起こって政情不安に陥った。人権上の危機が高まってキリンは撤退を決断。累計で680億円の損失を出している。

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キリンは2011年に進出したブラジルでも撤退を余儀なくされ、3000億円を投じた現地企業を770億円で売却した苦い過去がある。これも政情不安によるものだ。

新興国で急増する需要を捉えようとしたキリンと、安定した需要があるヨーロッパやオセアニアを攻めたアサヒ。海外展開ではアサヒに軍配が上がる。

取材・文/不破聡 写真/Shutterstock