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異様な雰囲気だった深夜の麹町警察署

2008年11月17日、18日。元厚生事務次官2名の自宅が立て続けに襲撃され、家族らが死傷する凄惨な事件が起こった。

厚生労働省は歴代事務次官経験者らに安全確保を呼び掛けるとともに、警察庁に彼らの身辺警護を要請。警察庁の米田壮刑事局長(当時)は「第3の犯行を許してはならない。一刻も早い犯人検挙を」と激を飛ばした。

襲撃された元事務次官のふたりはともに年金改革に携わっていたことから、メディアでは「年金問題に関連したテロではないか」と大きく報道された。

事態が動いたのは、事件発生から数日が経過した2008年11月22日。「犯人だ」と名乗る男が犯行を示す凶器などを持参し、レンタカーで警視庁に乗りつけ出頭したのだ。

「34年前、保健所に飼い犬を殺された仇討ちだった」

男が語った犯行動機はあまりにも不可解なものだった――。

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警視庁麹町警察署
警視庁麹町警察署
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「会見はいつ始まるんですか!」
「犯人の情報は!」

2008年11月23日未明。麹町警察署には新聞・テレビ・週刊誌の記者ら約100人が詰めかけ、怒号が飛び交う異様な雰囲気に包まれていた。

当時、週刊誌記者だった筆者も、前日に警視庁へ出頭してきた元厚生事務次官宅連続襲撃事件の犯人と名乗る男に関する会見が同署で行われると聞き、慌てて現場へ駆け付けたことを覚えている。

筆者が麹町警察署に着くと、すでに旧知の新聞・週刊誌事件記者が顔をそろえており、所轄の入り口付近で当時最先端だったテレビつき携帯電話の小さなモニター画面から随時更新される犯人の情報を食い入るように見つめていた。

「警視庁に車で乗り付けて出頭するなんて前代未聞ですね」
「犯行の動機はいったいなんだったんでしょう?」
「やはり年金テロなんですかね」

携帯のモニター画面を見つめる旧知の記者とそんな会話を交わしながら、立延哲夫捜査一課長(当時)による会見が始まるのを今か今かと待ち構えていた。