連日、テレビで流された“悪女”のイメージ
1998年7月25日。和歌山県和歌山市園部地区で行われた夏祭りで、提供されたカレーライスを食べた67人が次々と倒れ、うち4人が死亡するという事件が発生しました。
当初私たちは、単なる食中毒として報道していました。しかし、死者が出てくるなどしていく中で、「これは単なる食中毒ではないぞ」という緊張感に変わっていきました。
その後、被害者の吐瀉物や容器に残っていたカレーを検査したところ、青酸化合物の反応が検出されたことにより、何者かが毒物を混入した無差別殺人事件ということになりました(実際は青酸ではなく亜ヒ酸だったのですが)。
わずか70世帯ほどの新興住宅地の道路を報道関係者が埋め尽くし、上空には何機ものヘリコプターが爆音を上げて旋回している――そんな異様な状態が2か月以上続いていたのでした。
のちにこの地区に住む林夫妻が逮捕されます。逮捕までの2か月あまり、マスコミはこの林夫妻を“疑惑の人物”として追いかけ回していました。
この事件でマスコミは、警察からは何も発表されていないにも関わらず、林夫妻をあたかも犯人かのように報道していたのです。
特に取材陣に向かってホースで水をかける林眞須美さんの姿は連日テレビで流され、いかにも“悪女”の印象をマスコミがばら撒いたのでした(もちろん私も映像編集者としてその一員です)。結局、林夫妻は逮捕され、妻の林眞須美被告には死刑という判決が下りました。
日毎に過熱していくマスコミの取材姿勢は、歯止めが利かない状態になっていきます。林さん宅を大勢のカメラマンが取り囲み、四六時中見張っていました。中には脚立を使い、家の中の様子を覗き見するものまで出てきました。
“犯人”と決めつけた人物に対しては、最低限の取材ルールやモラルなど必要ないというような姿勢です。さすがにこれら一連のメディア・スクラムは問題だとして、様々な人たちが批判の声を上げました。
この過熱する取材合戦も大きな問題ですが、ここで私が伝えたいことは、そのことではありません。「林真眞美さんは本当に犯人なのか…」という疑問です。