「あの人が家賃を滞納したことは一度もありませんでした」

麹町警察署での記者会見の翌日。

事件記者の主戦場は、会見で発表されたKの居住地である埼玉県さいたま市北区と、Kの生まれ故郷であった山口県某市に分散されることになった。

前代未聞の事件の取材を行うため、新聞・テレビ各社はかなりの人数を割くこととなったが、事件当時、某週刊誌に所属していた筆者も5、6人からなるチームで埼玉と山口に分かれ、Kの生育過程や犯行動機に迫るべく取材を進めた。

東京地方裁判所
東京地方裁判所

筆者はKの居住地であるさいたま市周辺の取材を行うことになった。Kが住んでいた2階建てのアパートへ向かうと、朝早くからすでに事件記者でごった返しており、アパートの大家への取材には大行列ができていた。

「あの人は1998年ごろにウチのアパートに引っ越してきました。契約時の職業は無職。何をしているのかはわかりませんでしたが、月6万2000円の家賃・管理費を滞納したことは一度もありませんでした」

順番待ちをしながら大家への取材を終えた筆者が、Kの近況についてさらに近隣住民の取材を進めると、近所の建設工事を巡って建設会社とトラブルになっていたことや、訪問販売の勧誘員を怒鳴りつける姿がたびたび目撃されていたことがわかった。

Kの“キレやすい”性格が浮かぶ一方、立て続けに元事務次官を襲う動機めいた行動は、居住地付近の取材からは見えてこなかった。

小学生時代のK
小学生時代のK
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(#2へ続く)

取材・文/大島佑介

#2