「安倍さんの孫で妖怪の映画? なんですか、それ?」
一部の全国紙やラジオ、ネット媒体、キネマ旬報でも取り上げられた『妖怪の孫』。下関での特別上映にあたり、せめてもの宣伝にと同行したプロデューサーが地元大手の山口新聞に電話で相談をしてくれた。
「安倍元総理をテーマにしたドキュメンタリー映画でして、下関だけの特別上映が本日…」
「えーっと… 妖怪? 妖怪の孫? 安倍さんの話で妖怪の映画? なんですか、それ?」
公開からひと月を経て地元市民の熱い要望で自主上映。きっと多くの市民がこの映画を楽しみにしてくれているのでは…と思っていたが、全くの過信だった。なんたる認知度の低さか。
「本日は監督も下関にいまして、もちろん取材もOKですので…」と食い下がるも「いや、こちらは全くわからないので…」と冷たくあしらわれた。
「でも山口新聞は、宇部のシン仮面ライダーの写真パネル展はしっかり告知してますね」と助監督がいらん記事を見つけツッコむ。あたかも「人物よりもパネルのほうが価値ありなんですね」と言わんばかり。
山口新聞のH記者には現実の厳しさを教えていただいたが、ちなみにこの山口新聞社の目の前に鎮座するのが旧安倍事務所である。本作では「マスコミトップと安倍元首相が会食で接近」をネタにしたが、ここでは本社ごとお近づきだった。
余りの認知度の低さに落胆し、駅前広場で映画のチラシ片手に宣伝と街の反応を問うてみた。
「『妖怪の孫』?あー。知ってますよ、チラシが入ってたから。でも予定が合わないからね…。見たいといえば、見たいですけど」
若い主婦の反応は悪くない。
「友達が行くって言ってました。私? わからないから、こういうの」
認知度はそれなりに高いようだ。一瞥して去っていく男性もいるが、どうやら映画は知っているが関わりたくない…という雰囲気のようだ。
「選挙? ああ。結果がわかっているよね、下関では。だから諦めがあるよね、みんなに」
後で聞いて驚いたのだが、映画の主催者チームは、下関・長門の11万戸へ上映会のチラシをポスティングしたというのだ。折込チラシなら安いが、新聞購読が減った今、相当なコストをかけてポスティングにこだわった。
上映会場は生涯学習施設ドリームシップ。本作でも「安倍晋三の兄(当時三菱商事の広島支社長)が関与した談合疑惑が…」と紹介したいわく付きの公共施設だ。下関市民が公然と知る「安倍さんを語る上で大事な場所」での上映というのも象徴的で面白い。
受付には主催者チームの田辺よしこさんがいた。本作で下関市内の談合・韓国人街の説明をしてくれた元市議で、熱血おかぁちゃんだ。
「ホントにこの映画を沢山の人に見てもらいたいの! 問い合わせはスゴイ来ているのよ」
嬉しそうに話してくれるが、具体的な数字は教えてくれない。予約チケットはあまり売れていない様子。一回200席なので二日間×5回上映でマックス1000人の計算になるが、せめて毎回50人、合計300人行けば…というが私の見立て。それでも田辺さんたちは「合計500人にはなるわよ、きっと」と強気だ。捕らぬ狸のなんとか…でなきゃいいが。
ただし、ここは安倍元首相の本拠地だ。利権渦巻くこの街で、しかも選挙直前の今、何かが起きないとも限らない。そして、その予感は的中することとなる。
後編へ続く
取材・文/内山雄人
後編:〈衆院山口4区〉70年続いた「岸・安部王国」でまさかの映画「妖怪の孫」上映!内山監督が見た「妖怪の選挙区のリアル」 はこちら
「妖怪の孫」絶賛上映中!
「パンケーキを毒見する」の内山雄人監督が“日本の真の影”に切り込むドキュメンタリー。昭和の妖怪と呼ばれた政治家・岸信介の孫であり、連続在任日数2822日を誇るも凶弾に倒れた元総理大臣・安倍晋三。彼の政治を総括し、日本の姿、その根本にあるものを紐解く。企画は「かぞくのくに」「新聞記者」「i 新聞記者ドキュメント」など数々の問題作を生み出してきたスターサンズの河村光庸
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