岸田首相、菅前首相との差別化
まず印象深かったのは、安倍さんの生涯を生まれたときから描写していったところ。生前の場面場面での安倍さんの心境や心持ちを、聴衆は想像しながら聴くことができました。
岸田さんと菅さんが弔辞を読まれたあとだったので、差別化が非常に重要でした。国葬から1か月近く経っていたこともあり、安倍さんの人生を振り返る機会をいま一度あたえられ、聴衆は新鮮な感動を覚えたことでしょう。
一方、「同期当選」と語ったところから、安倍さんと野田さんの人生が交わっていきます。非常に映像的で興味深い構成でした。
また、野田さんは“自己開示”がとても秀逸でした。スピーチや演説ではどうしても自分のきらびやかな功績を語りたくなるものですが、本当の意味で心を惹きつけられるのは失敗してしまった話。その人にとって勇気が必要なことを語ると、人柄がとても伝わってくるものです。
たとえば、
「そこには、フラッシュの閃光を浴びながら、インタビューに答えるあなたの姿がありました。私にはその輝きがただ、まぶしく見えるばかりでした」
というシーン。うらやましい、くやしいといった気持ちをまるで小説家のような繊細な描写で表現していますよね。
もう1か所、
「あなたには謝らなければならないことがあります」
という表現も非常に印象的です。そこから、
「『総理大臣たるには胆力が必要だ。途中でおなかが痛くなってはダメだ』。私は、あろうことか、高揚した気持ちの勢いに任せるがまま、聴衆の前で、そんな言葉を口走ってしまいました。他人の身体的な特徴や病を抱えている苦しさを揶揄することは許されません。語るも恥ずかしい大失言です」
へとつながりますが、自分を高く見せず、本心から話しているんだなと聴衆は感じたでしょう。