『レオン』のマチルダを思わせる胸騒ぎのアートワーク
チェコ映画界の新鋭トマーシュ・ヴァインレプ&ペトル・カズダが脚本・監督を手掛けた『私、オルガ・へプナロヴァー』(2016)のポスターのアートワークを見て、「これは見なくてはいけない映画だ」と直感的に思った。それは、オルガ役を演じるポーランド女優ミハリナ・オルシャニスカが正面を見据える顔の半分を切り取ったもので、その眼差しの鋭さに胸騒ぎを覚えた。
彼女を評して、「ハリウッド・レポーター」誌は『タクシー・ドライバー』(1976)のトラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)を引き合いに出し、「ヴィレッジ・ボイス」紙は「狂ったナタリー・ポートマン」と形容した。確かに、ポスターのオルガは『レオン』(1994)のマチルダを思わせる。その彼女が、トラヴィスのような狂った行動を起こすとは一体どんな映画なのか!?
本作は、少女の頃から精神的に不安定で施設に預けられ、そこでも集団リンチやいじめに遭い、次第に破滅へとひた走るヒロインを描いた作品。トラックで意図的に路面電車を待つ人々へ突っ込み、8人が死亡、12人を負傷させ、22歳で処刑されたチェコ最後の女性死刑囚の実話に基づいている。
演出のアプローチはあたかもドキュメンタリーを見ているようだ。淡々と描いていながらも、ヒロインの心が次第に病んでいく様を観客に追体験させる。彼女の物語を通じて何を描きたかったのか、監督二人に話を聞いた。
『私、オルガ・へプナロヴァー』が強い印象を残す要因のひとつは美しいモノクロームの映像にある。モノクロにこだわった特別な理由は何かあるのだろうか?
「実在したオルガという人物を知った瞬間から、これはモノクロだと思ったんだ。逆に言えば、モノクロ以外で撮ることなど初めから選択肢には全く入っていなかったね」(トマーシュ)
「“プラハの春”のあと、ソ連軍の駐留が開始された当時のチェコでは、非常に抑圧的な日々を送らなくてはならなかった。全てが灰色のイメージだったんだ」(ペトル)
灰色というのはその時代のチェコという国全体のイメージであると同時に、オルガという主人公の心自体にカラフルな色味がなく、彼女の心には寒々しいモノクロの世界しか存在しないようにも感じられる。