社会に対して行なった死刑宣告

チェコ最後の女性死刑囚として絞首刑に処された22歳。社会から虐待を受け続けた彼女は、なぜ復讐という名の自殺を決行したのか_3

映画では、オルガは裕福な実家を出てブルーカラーとして働きながら、女性と性的関係を結んでいたことが描かれる。もっとも、オルガは性的志向性以前の問題として、自分が何者なのかがよくわかっていないようにも思える。

「彼女は、今でいう解離性障害だったのだと思う。当時の精神医学ではまだそこまでの理解は進んでいなかったから、今日のようなカウンセリング制度やセーフティネットは望むべくもなかったんだ」(ペトル)

「女性と関係を持っていたのは、男性といるよりも女性といるほうが安全な気持ちでいられたんじゃないかな。おそらくは父親から暴力を受けていた影響だと思う」(トマーシュ)

劇中、オルガが「不幸なのか幸せなのかわからない」と語る台詞があった。幸せを感じられそうもないなら、せめて自分が不幸であることを感じたいというのが、トラックによる無差別殺人という行為の動機だったようにも思える。徹底的に否定的なものであったとしても、誰かに自分という存在を認識してもらいたかったのではないだろうか?

「自分が社会からいじめられてきたことをアピールしたかったはずだ。彼女は知的レベルが非常に高い人だったと思うよ」(トマーシュ)

「『社会が私のような人をいじめるのであれば、またそういう人が出てくる。社会を変えていかなくてはならない』。彼女が社会に対して伝えたかったのは、このことなんだ」(ペトル)

ちなみに、犯行前に彼女は「私、オルガ・へプナロヴァーはお前たちに死刑を宣告する」という声明文を新聞社宛てに送りつけていたという。多くの人から受けてきた虐待に対する復讐だ、とハッキリ表明していたのだ。