佐藤浩市から寛一郎へのスター性の継承

親の七光だけでなく祖父の七光までも武器に。俳優&政治家の三世はスターか? 凡人か? 妖怪か?_1
4月29日(金)から公開される映画『せかいのおきく』主人公・おきくの父を演じた佐藤浩市(左)と、おきくと恋に落ちる中次を演じた寛一郎
©2023 FANTASIA 
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世襲で名跡を継いでいく歌舞伎役者の家を別にすると、今日、映画界でもっとも活躍している“三世スター”俳優は寛一郎だろう。『菊とギロチン』(2018)で寛一郎の演技に初めて接したとき、その存在感にただならぬものを感じた。

もっとも、そのときには彼が佐藤浩市の息子であり、三國連太郎の孫であることは知らずに見ていて、後からプロフィールを見てびっくりした次第。公開では『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(2017)の方が先になったが、初めて演技をしたのは『菊とギロチン』だったというから、やはり彼の身にまとわりついているただならぬ存在感は、天性のものに違いあるまい。

その後『雪子さんの足音』(2019)、『一度も撃ってません』(2020)で父・佐藤浩市との共演を果たし、前者では父は“友情出演”だったが、後者では主人公(石橋蓮司)の担当編集者を佐藤浩市が演じ、寛一郎はその部下という役での競演だった。

親の七光だけでなく祖父の七光までも武器に。俳優&政治家の三世はスターか? 凡人か? 妖怪か?_2
寛一郎演じる中次(右)は、池松壮亮演じる矢亮とともに肥料用の糞尿を売り買いする仕事をしている(『せかいのおきく』)
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新作『せかいのおきく』(2023)では、忍者アクション『下忍 赤い影』(2019)とその姉妹編『下忍 青い影』(2019)に続く時代劇出演で、またまた魅せてくれた。アクション時代劇とは打って変わり、今回演じたのは、口下手だが人を思いやる心を持つ最下層の青年・中次。声を失ったことで心を閉ざした娘おきく(黒木華)との、切なくも温かい恋の行方を描いた作品で、新境地を示してくれた。

監督は『一度も撃ってません』に続いて阪本順治、そしてキャストの中には今回も父・佐藤浩市がおり、おきくの父役としてデンと控えている。

もはや父親として息子の主演作をサポートしたいというレベルを超えた、俳優と俳優の競演がもたらす化学変化というか、どちらも「相手には負けない」というライバル心を持った、存在感溢れるスター俳優同士の見事な競演だと感じさせてくれた。

怪優・三國連太郎との確執を越えてスターとなった佐藤浩市

“三世スター”というくくりで寛一郎を紹介する上で、彼の祖父に当たる三國連太郎と佐藤浩市との複雑な関係に触れない訳にはいかない。寛一郎の祖父は戦後すぐの1951年に、松竹の木下惠介監督の『善魔』(1951)で三國連太郎役として主役デビュー。役名をそのまま芸名にした昭和の怪優だ。計20作品続いた『釣りバカ日誌』シリーズ(1988~2009)でのスーさん役で記憶している人もいるだろう。

佐藤浩市は、三國連太郎の3人目の妻との間に生まれた息子。だが、奔放な女性関係で知られていた三國はほどなく妻子を捨てて家を出たため、佐藤は父に対して屈折した思いを抱いて成長し、やがて父と同じ道に進んだ。

『人間の約束』(1986)で父と初競演し、その10年後の『美味しんぼ』(1996)では歳の差を越えたライバル同士の役として共演を果たしたが、記者会見では互いに相手のことを「三國さん」「佐藤くん」と呼ぶなど、ギクシャクした関係が続いていた。

だが、三國の晩年にはようやくわだかまりも消えたようで、親子でテレビCMに出演したり、往時のふたりの緊張関係を知る人々に安堵の気持ちを与えていたのだった。

寛一郎は本名・佐藤寛一郎で、佐藤浩市にとってふたり目の妻との間に生まれた息子。寛一郎は幼い頃から父に連れられて映画の撮影現場を見て育ったというから、やはり子は父の背中を見て育ち、父を越えたいと思うものなのだろう。