死刑制度が何かの解決に役立つとは思えない

チェコ最後の女性死刑囚として絞首刑に処された22歳。社会から虐待を受け続けた彼女は、なぜ復讐という名の自殺を決行したのか_4
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オルガが起こしたような事件は、日本でも起こっている。2005年には死にたいと思った男が仙台のアーケードをトラックで暴走し、意図的に歩行者を次々とはねて死傷させた事件があった。2008年には東京の秋葉原でやはり、「ネットの掲示板荒らしに対する抗議の表明手段」として、同様の事件を起こした青年がいた。

仙台の事件では裁判で「心神喪失」を主張して無期懲役となり、秋葉原の事件では死刑となっている。死刑制度があるから、死刑になりたい者がこうした無差別殺人をおかしてしまう、という考え方もあると思うが……。

「ペトルも僕も、死刑制度には大反対で、死刑制度があっても何の解決にもならないと思っている。逆に、日本では今でも死刑制度があるということを知って、とてもショックだ」(トマーシュ)

死刑制度のことなど普段は考えることもないが、こうして日本がいまだに死刑制度を持つ国であることに違和感を持たれると、自分事として考えなければならない、と強く感じた次第。

筆者は映画を見終わって、デニス・ホッパーの『アウト・オブ・ブルー』(1980)との共通点を感じた(※)。

「残念ながらその作品のことは知らないけど、今度見てみるよ。僕はあまりたくさん映画を見てはいないんだ。もちろん、黒澤明監督や溝口健二監督がモノクロで撮った古典的名作、あるいは勅使河原宏の『砂の女』(1964)なんかは見ているよ。僕らの作品のことをロベール・ブレッソンに似ていると言ってくれる人もいて、それはそれで嬉しいんだけど、どちらかというと『東京物語』(1953)の小津安二郎のほうが似ているかもしれないね」(トマーシュ)

彼らが挙げてくれた作品はどれもモノクロの美しい作品だが、家族の緩やかな崩壊という普遍的なテーマを描いている『東京物語』は、確かに家族という共同体に安息の地を見いだせなかったオルガの物語とリンクするかもしれない。


※誰にも理解されない少女(リンダ・マンツ)が絶望の果てに親を殺し、トラックごとダイナマイトで爆死する物語。ニール・ヤングの同名の曲から着想を得た、デニス・ホッパーの3本目の監督作(兼助演)。