注目の次回作、そしてタイトルの由来は?
最後に、次回作『Nobody Likes Me』(私を好きな人などいない)のことも聞いておかなくてはなるまい。まるで、本作のオルガの心の叫びのようなタイトルだが、どんな映画なのだろうか?
「元々は『私、オルガ・へプナロヴァー』のタイトルを『Nobody Likes Me』にしようと思っていたんだ。このタイトルは、フランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』(1959)のチェコでの公開タイトルでもあったんだ。実はもう完成していて、今はどこの映画祭に出品してお披露目しようかと検討中。『私、オルガ・へプナロヴァー』と似たところがあり、同じ様に若い女性を主人公とした映画だ、とだけ言っておこう。楽しみにしてほしいね」(ペトル)
言われるまでもなく、チェコの二人組の動向からは今後も目が離せない。まずは、今回の作品でトマーシュ・ヴァインレプ&ペトル・カズダという名前をインプットしてほしい。
『私、オルガ・へプナロヴァー』はショッキングな実話をもとにしているが、誰からも理解されていないと思い詰める若者のテーマは普遍的だ。遠い国の過去の出来事ではなく、誰にでも、いつでも起こりうる可能性がある。そのことを、この映画は静かに提示してくれている。
文/谷川建司
『私、オルガ・へプナロヴァー』(2016)Já, Olga Hepnarová 上映時間:1時間45分/チェコ・ポーランド・スロバキア・フランス
銀行員の父と歯科医の母を持つ経済的にも恵まれたオルガ・ヘプナロヴァーは、1973 年 7 月 10 日、チェコの首都プラハの中心地で、路面電車を待つ群衆のへトラックで突っ込む。この事故で8 人が死亡、12 人が負傷。 犯行前、22 歳のオルガは新聞社に犯行声明文を送った。自身の行為は、多くの人々から受けた虐待に対する復讐であり、社会に罰を与えたと示す。両親の無関心と虐待、社会からの疎外やいじめによって心に傷を負った少女は、自らを「性的障害者」と呼び、酒とタバコに溺れ、女たちと次々に肌を重ねる。しかし苦悩と疎外感を抱えたままの精神状態はヤスリで削られていくかのように、一層、悪化していく。複雑な形の「復讐」という名の「自殺」を決行したオルガは、逮捕後も全く反省の色を見せず、75 年 3 月 12 日にチェコスロバキア最後の女性死刑囚として絞首刑に処された。
4月29日(土)より全国順次公開
配給:クレプスキュール フィルム
公式サイト:https://olga.crepuscule-films.com