実力ナンバーワンと“絶対王者”の争い
制作チームではまず、本大会の展開を想定するところから準備を開始した。一波乱あるとすれば次のような流れではないか、との結論に達した。
すなわち400キロ以上のレースに出場した経験のない土井が、睡眠不足や疲労蓄積などの理由でレース後半・南アルプス山中で調子を崩す。一方で、望月は普段から南アルプスを拠点に山岳救助隊の活動を行なっており、土地勘がある。
加えて、最後の関門が置かれる静岡市井川地区出身であることから「故郷に戻る」という強いモチベーションを持って、南アルプスでペースを上げ、終盤で土井に追いつく。そこに、初出場の選手や 2021年大会の途中中止で涙を吞んだ者たちが割って入るのでは、と。
一点、ここで留意すべきことがあった。「土井と望月の対決を主軸に据える」と書いた。一方で望月本人は、ここまで「トップを狙いたい」とは一切述べてはいなかった。44歳という年齢になり、体力的には全盛期を過ぎていることは、本人が最も強く自覚していた。
北條が本大会前に行なったインタビューでは、こう語っていた。
「自分の中では速かった頃、うまく進めていた頃の自分の姿が脳裏に浮かびます。一方で、今、それができるかというと自信がない。『望月さん負けたのね』と言われることも考えた。じゃあ、出ない方がいいか? そうじゃない。『完走すれば新しいことが見えるのでは。参加すれば感じるものがあるのでは』と思って、一歩踏み出した……というところが今回のチャレンジに対しての思いです」
土井の強さは一歩、抜けている。そこは揺るぎない事実だった。それは望月も認めている。その中で天候不順やアクシデント、睡眠不足から来る疲労、そういった要素が重なってデッドヒートが繰り広げられる可能性はあるし、そうなれば面白い。
取材・文/齊藤 倫雄