斬新な恐怖描写が実現

その先鞭をつけたのがスピルバーグ製作/脚本(共同)、監督が『悪魔のいけにえ』(1974)『悪魔の沼』(1976)『ファンハウス・惨劇の館』(1981)のトビー・フーパーで組んだ心霊ホラー、『ポルターガイスト』(1982)であります。

監督、製作で参加した作品は100本をゆうに超えるスピルバーグが脚本でクレジットされたのは、後にも先にも『未知との遭遇』『A.I.』(2001)、最新作の『フェイブルマンズ』(2022)と本作『ポルターガイスト』の4本のみ。本来であれば自ら監督するつもりでいたのに同年末に公開されることになる『E.T.』(1982)の製作とぶつかったのでトビー・フーパーに監督を託しました。

欲望みなぎる高2男子の樋口真嗣を魅了したのは、1982年あたりのSF&ホラーを彩った、ザクロのように割れて咲き乱れる脳漿や肉片の恐怖表現だった!【『ポルターガイスト』】_2
『ポルターガイスト』撮影中。右からフーパー監督、スピルバーグ
©Mary Evans/amanaimages

無縁墓ばかりになった墓地が再開発された、アメリカだったらどこにでもあるような大都市郊外の新興住宅地に起きる心霊現象に巻き込まれる、アメリカだったらどこにでもいそうな一家。 呪い、祟りといった超自然的な心霊現象を科学的に裏付けするのは『未知との遭遇』と同じアプローチだけど、『ジョーズ』(1975)をはじめとする皮膚感覚に訴える恐怖と、トビー・フーパーの硬質で低温、理不尽な殺伐に溢れる恐怖。

スピルバーグの冠が先行したこともあり、宣伝にも予算がふんだんにかけられ、『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』(1980)でジョージ・ルーカスが設立した特撮ファシリティ<ILM〜インダストリアル・ライト&マジック>の首席スーパーバイザーになったリチャード・エドランドが、『帝国の逆襲』『レイダース』に続いて、低予算が通例のホラー映画では今まで誰も作りえなかった恐怖描写を、史上最高レベルに予算をかけて実現しました。

単なる幽霊ではなく家そのものが、怪物として住人に襲いかかります。狙うは無垢な心を持つ末娘。放送終了後の砂の嵐が映るテレビ。空中を浮遊する霊体やおもちゃたち。子供部屋目指して走る母親を嘲るように、果てしなく長く伸びていく廊下。どれも従来の恐怖映画で体験できなかった斬新な描写が、これでもかと続きます。

そんな中でもっとも恐ろしかったシーン。霊現象の調査のために専門家の科学者グループが家に泊まり込んでデータの収集を始めるのですが、ちょっと無作法な若い学者が冷蔵庫の中のローストチキンを勝手につまみ食いして、真夜中の洗面所で鏡に映る自分の顔に発疹を見つけ、気になって掻きむしるうちにどんどんエスカレートしていきます。夢中で掻いた拍子に洗面台に落ちたローストチキンの、さっきまでかじっていた断面にはウジ虫が湧いて出てくるのです。