パワハラ上司、足を引っ張る同僚、生意気な部下

ところが、いまでは、オプトアウトのことなど誰も言わなくなった。エリート同士のパワーカップルには、フリーランスになるという、より魅力的な選択肢ができたからだ。

会社に毎日出社しなくても、仕事はリモートでできるし、SNSで評判を獲得すれば、会社の看板も必要なくなる。いつ誰とどのように仕事するかを自分たちで決められれば、子育てと仕事の両立はずっと容易になるだろう。

幸福についての研究では、愛する家族を亡くしたり、失恋や離婚で落ち込むよりも、日々の通勤の方が幸福度を下げることがわかっている。脳はよいことにも悪いことにも慣れてしまうので、どれほどつらい出来事でも「1回限り」であれば、いずれ幸福度は生得的な水準に戻っていく。
ところが「終わりの見えない嫌なこと」は、気持ちを切り替えることができないのだ。

現代人の最大のストレスは、人間関係を選択できないことだ。家族を選べないのは仕方がないとしても、パワハラする上司、足を引っ張る同僚、仕事ができないくせに生意気なことばかり言う部下と毎日顔を合わせなくてすむだけで、幸福度は劇的に上がる。
これが、多少のリスクがあっても、先進国でフリーエージェント化が進む理由だろう。

このようにして、経済的独立を達成したBOBOSのカップルは、お金よりも家庭や自由な時間を大切にするようになった。
4世帯に1世帯が「年収1000万円以上」というデータからわかるように、日本でも確実にBOBOSは増えている。
仕事も人間関係も選択できて、経済的な不安なしに好きなこと・得意なことをやりながら自由に生きる。これからはそんなライフスタイルが、世界中の若者たちが目指す理想になっていくだろう。

文/橘玲