(後編)

遺書『動くと、死にます。』

『動くと、死にます。』というショッキングなタイトルの本がある。書いたのは小川一平さん(33)。中学2年生から20年近く家にひきこもっていた当事者だ。

今から5年前、28歳のときに小川さんは「死にたい」衝動が抑えきれなくなり、精神科病院に1か月間、保護入院した。そのとき閉鎖病棟で書いた日記をもとに、両親にも理解されない生きづらさ、ひきこもり続けている自分の内面などを率直につづったものが本書だ。

「ひきこもっているのは甘えだ」と決めつける人に疑問を投げかけ、「動きたくても、動けない人がいる」とくり返し訴えている。

「僕としては、遺書のつもりで書いたんです。この遺書を、いろいろな人に届けるということを、退院してからの唯一の生きがいとしてやってきたんです。この本の送り先がなくなったら、僕、死にます」

真剣な眼差しに、一瞬、ドキッとしたが、小川さんはすぐに表情をゆるめると、「そんな心づもりで、実はやっているんです」と穏やかな口調で続ける。

「動けなさへの寛容さがもっと広がれば、僕以外のひきこもりや、ひきこもりじゃなくても持病や高齢で動けなさを抱えた人のためになるだろうと思うんですよ」